100%親子会社間の適格分社型分割 – 会計処理と別表調整

目次

基本的な考え方

譲渡損益が生じない

(適格分社型分割による資産等の帳簿価額による譲渡)

 内国法人が適格分社型分割により分割承継法人にその有する資産又は負債の移転をしたときは、第六十二条第一項(合併及び分割による資産等の時価による譲渡)の規定にかかわらず、当該分割承継法人に当該移転をした資産及び負債の当該適格分社型分割の直前の帳簿価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する。


第六十二条の三

適格分社型分割では、資産負債が帳簿価額で移転され譲渡損益が原則として生じません。この考え方は、会計上、税務上の相違もありません。発行された株式を引き続き保有していくのであれば、投資が継続していることになるためです。

そのため、分割会社において、分割前に会計上と税務上の差異が生じ別表調整を行っていた場合、別表上の調整額も含めてそのまま承継されることになります。継承されるのは、当然ながら移転する事業に含まれるものであるため、資産、負債、別表調整額も含め、分割対象に帰属するのか否かを明確に峻別する必要があります。

みなし事業年度の概念はない

合併の場合には、消滅会社が消滅時点で確定決算を行い、みなし事業年度として税金計算を行い納税義務が承継されますが、分割においてこのような考え方はありません。

従って、仮決算により分割対象と分割対象外の事業を明確に整理・区別することになります。

分割法人の処理

具体例の概要

(例)P社は、×1年度末にS社へ分割を行い、S社の発行済株式の100%を保有しています。

図:組織再編の概要
  • 適格分割に該当する
  • 対価はS社株式
  • 分割承継法人S社では増加する株主資本の全てをその他資本剰余金とした

P社の会計上の仕訳

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借方借方金額貸方貸方金額
分割時諸負債200諸資産330
賞与引当金50貸倒引当金△30
分割承継法人株式50
P社の会計上の仕訳

P社の税務上の仕訳

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借方借方金額貸方貸方金額
分割時諸負債200諸資産330
分割承継法人株式110貸倒引当金△20
P社の税務上の仕訳

分割直前のP社の利益積立金額(一部抜粋)

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分割対象分割対象外合計
貸倒引当金103040
賞与引当金50140190
P社の分割直前の利益積立金額

会計上も税務上も分割前の帳簿価額がそのまま承継されるため、利益積立金額の申告調整部分も承継されます。従って、上記のように別表5(1)利益積立金額の調整額を整理・区別する処理が求められます。

P社の別表5(1)

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Ⅰ利益積立金額の計算に関する明細書
区分期首現在
利益積立金額
当期の増減差引翌期首現在
利益積立金額
貸倒引当金0※ 104030
賞与引当金0※ 50190140
分割承継株式0※ 6060
繰越損益金1,0001,000
差引合計1,000602901,230
別表5(1)利益積立金
貸倒引当金

分割対象に含まれる、会計上と税務上の貸倒引当金額の差額10が分割によってS社に移転するため減算欄に記載します。

加算欄にP社全体の調整額を記入することで、増減差額と分割外の事業に帰属する調整額が一致します。

賞与引当金

分割対象に含まれる、会計上と税務上の賞与引当金額の差額50が分割によってS社に移転するため減算欄に記載します。

加算欄にP社全体の調整額を記入することで、増減差額と分割外の事業に帰属する調整額が一致します。

分割承継株式

株式の価額に会計上と税務上で60の差異が生じているため調整します。

全体を俯瞰すると、適格分割により利益積立金が変動しておらず、税務上の仕訳に基づくあるべき形になっていることが分かります。

(※)

組織再編による変動額であることが判別できるよう、別表に(※)を記載することがあります。決まった記載方法があるわけではなく、エクセル等で整理した資料を添付した方がより丁寧です。

減価償却費について

分割の場合、みなし事業年度の概念がないため確定決算が分割時点において行われず、減価償却費のように確定決算を行わないと損金算入が行われないものが問題となります。

この点、「適格分割等による期中損金経理額等の損金算入に関する届出書」を提出することにより損金算入が可能となります。

分割承継法人の処理

S社の会計上の仕訳

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借方借方金額貸方貸方金額
分割時諸資産330諸負債200
貸倒引当金△30賞与引当金50
その他資本剰余金50
S社の会計上の仕訳

S社の税務上の仕訳

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借方借方金額貸方貸方金額
分割時諸資産330諸負債200
貸倒引当金△20資本金等の額110
S社の税務上の仕訳

S社の別表5(1)

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Ⅰ利益積立金額の計算に関する明細書
区分期首現在
利益積立金額
当期の増減差引翌期首現在
利益積立金額
貸倒引当金0※ 1010
賞与引当金0※ 5050
資本金等の額0※ △60△60
繰越損益金800800
差引合計8000800
別表5(1)利益積立金
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Ⅱ資本金等の額の計算に関する明細書
区分期首現在
資本金等の額
当期の増減差引翌期首現在
資本金等の額
資本金500500
資本準備金
その他資本剰余金5050
利益積立金6060
差引合計500110610
別表5(1)資本金等の額
貸倒引当金

分割対象に含まれる、会計上と税務上の貸倒引当金額の差額10が分割によってS社に移転し引き継がれます。

賞与引当金

分割対象に含まれる、会計上と税務上の賞与引当金額の差額50が分割によってS社に移転し引き継がれます。

利益積立金

会計上、その他資本剰余金が50増加しているが、税務上は資本金等の額が110増加しなくてはならないため、差額の60を調整する。

税務上の仕訳を見ると利益積立金は変動していないため、上記の調整であるべき形になっていることが分かる。

(※)

組織再編による変動額であることが判別できるよう、別表に(※)を記載することがあります。決まった記載方法があるわけではなく、エクセル等で整理した資料を添付した方がより丁寧です。

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この記事を書いた人

PwCあらた有限責任監査法人の金融部門に所属。保険会社を中心とした会計監査、内部統制監査、各種コンサルティング業務に従事。AI化推進室に兼任で所属し、公認会計士業務の自動化を担当。

セコム損害保険株式会社、THホールディングス株式会社における、保険数理、金融派生商品の評価、予実統制、税務、M&A、企業再生、IPO支援の経験を経て、PEファンドJ-star傘下、株式会社Free Spark、株式会社CyberKnot、Mattrz株式会社のCFOを歴任。

2020年、AIknot会計事務所を設立し代表に就任。
2023年、AIknotコンサルティング合同会社を設立し業務執行代表社員に就任。

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