100%子会社との無対価分割‐会計処理と別表調整 | 会計・税務

目次

企業会計上と税務上の相違点

企業会計上は分割型分割

完全親子会社関係にある組織再編において対価が支払われない場合の会計処理

会社分割の場合
① 親会社の事業を子会社に移転する場合
吸収分割会社である親会社は、第233項に準じて会計処理を行い、株主資本の額を変動させる。なお、変動させる株主資本の内訳は、取締役会等の会社の意思決定機関において定められた額(株主資本の内訳の配分については第446項参照)とする。
吸収分割承継会社である子会社は、親会社で変動させた株主資本の額を、会社法の規定に基づき計上する(第234項参照)。 なお、親会社の株主は会計処理を要しない


企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 203-2(2)①

企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第233項は、分割型分割の会計処理を規定しております。そのため、無対価合併の場合、企業会計上は事業の分割と現物配当がなされたものとして会計処理することになります。

法人税法上は分社型分割

十二の十 分社型分割 次に掲げる分割をいう。
ロ 無対価分割で、その分割の直前において分割法人が分割承継法人の株式を保有している場合(分割承継法人が分割法人の発行済株式等の全部を保有している場合を除く。)の当該無対価分割

法人税法 第2条 十二の十より抜粋

無対価合併は、法人税法上は分社型分割として捉えている点が異なります。

従って、会計処理が分離し別表調整が必要になります。

分割法人の処理

具体例の概要

(例)P社は、×1年度末に無対価でS社へ分割を行いました。P社はS社株式の100%を保有しています。

図:組織再編の概要
  • 適格分割に該当する
  • 分割法人P社では現物配当によりその他利益剰余金を減少させる

P社の会計上の仕訳

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借方借方金額貸方貸方金額
分割時諸負債200諸資産330
賞与引当金50貸倒引当金△30
分割承継法人株式50
現物配当その他利益剰余金50分割承継法人株式50
P社の会計上の仕訳

P社の税務上の仕訳

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借方借方金額貸方貸方金額
分割時諸負債200諸資産330
分割承継法人株式110貸倒引当金△20
P社の税務上の仕訳

分割直前のP社の利益積立金額(一部抜粋)

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分割対象分割対象外合計
貸倒引当金103040
賞与引当金50140190
P社の分割直前の利益積立金額

移転資産及び負債に関しては、会計上も税務上も分割前の帳簿価額がそのまま承継されるため、利益積立金額の申告調整部分も承継されます。従って、上記のように別表5(1)利益積立金額の調整額を整理・区別する処理が求められます。

P社の別表5(1)

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Ⅰ利益積立金額の計算に関する明細書
区分期首現在
利益積立金額
当期の増減差引翌期首現在
利益積立金額
貸倒引当金0※ 104030
賞与引当金0※ 50190140
分割承継株式0※ 110110
繰越損益金1,000950
差引合計1,000603401,230
別表5(1)利益積立金
貸倒引当金

分割対象に含まれる、会計上と税務上の貸倒引当金額の差額10が分割によってS社に移転するため減算欄に記載します。

加算欄にP社全体の調整額を記入することで、増減差額と分割外の事業に帰属する調整額が一致します。

賞与引当金

分割対象に含まれる、会計上と税務上の賞与引当金額の差額50が分割によってS社に移転するため減算欄に記載します。

加算欄にP社全体の調整額を記入することで、増減差額と分割外の事業に帰属する調整額が一致します。

分割承継株式

株式の価額に会計上と税務上で110の差異が生じているため調整します。

全体を俯瞰すると、適格分割により利益積立金が変動しておらず、税務上の仕訳に基づくあるべき形になっていることが分かります。

(※)

組織再編による変動額であることが判別できるよう、別表に(※)を記載することがあります。決まった記載方法があるわけではなく、エクセル等で整理した資料を添付した方がより丁寧です。

減価償却費について

分割の場合、みなし事業年度の概念がないため確定決算が分割時点において行われず、減価償却費のように確定決算を行わないと損金算入が行われないものが問題となります。

この点、「適格分割等による期中損金経理額等の損金算入に関する届出書」を提出することにより損金算入が可能となります。

分割承継法人の処理

S社の会計上の仕訳

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借方借方金額貸方貸方金額
分割時諸資産330諸負債200
貸倒引当金△30賞与引当金50
その他利益剰余金50
S社の会計上の仕訳

ただし、受入れた資産及び負債の対価として子会社の株式のみを交付している場合には、親会社で計上されていた株主資本の内訳を適切に配分した額をもって計上することができる(第446項参照)。この場合、株主資本の内訳の配分額は、親会社が減少させた株主資本の内訳の額と一致させる(第409項参照)。

企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 234(2)より抜粋

P社でその他利益剰余金を減少させているため、S社もその他利益剰余金を変動させます。

S社の税務上の仕訳

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借方借方金額貸方貸方金額
分割時諸資産330諸負債200
貸倒引当金△20資本金等の額110
S社の税務上の仕訳

S社の別表5(1)

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Ⅰ利益積立金額の計算に関する明細書
区分期首現在
利益積立金額
当期の増減差引翌期首現在
利益積立金額
貸倒引当金0※ 1010
賞与引当金0※ 5050
資本金等の額0※ △110△110
繰越損益金800850
差引合計8000800
別表5(1)利益積立金
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Ⅱ資本金等の額の計算に関する明細書
区分期首現在
資本金等の額
当期の増減差引翌期首現在
資本金等の額
資本金500500
資本準備金
その他資本剰余金
利益積立金110110
差引合計500110610
別表5(1)資本金等の額
貸倒引当金

分割対象に含まれる、会計上と税務上の貸倒引当金額の差額10が分割によってS社に移転し引き継がれます。

賞与引当金

分割対象に含まれる、会計上と税務上の賞与引当金額の差額50が分割によってS社に移転し引き継がれます。

利益積立金

会計上、その他利益剰余金が50増加しているため繰越損益金が50増加している。税務上は変動していないため、△110の調整を加えればあるべき形になる。

全体を俯瞰すると、利益積立金は変動しておらず、資本金等の額が110増加しており、上記の調整で税務上のあるべき形になっていることが分かる。

(※)

組織再編による変動額であることが判別できるよう、別表に(※)を記載することがあります。決まった記載方法があるわけではなく、エクセル等で整理した資料を添付した方がより丁寧です。

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監修者

PwCあらた有限責任監査法人の金融部門に所属。保険会社を中心とした会計監査、内部統制監査、各種コンサルティング業務に従事。AI化推進室に兼任で所属し、公認会計士業務の自動化を担当。

セコム損害保険株式会社、THホールディングス株式会社における、保険数理、金融派生商品の評価、予実統制、税務、M&A、企業再生、IPO支援の経験を経て、PEファンドJ-star傘下、株式会社Free Spark、株式会社CyberKnot、Mattrz株式会社のCFOを歴任。

2020年、AIknot会計事務所を設立し代表に就任。
2023年、AIknotコンサルティング合同会社を設立し代表社員に就任。

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