事案の概要
(例)P株主はA社の発行済株式の100%を保有していたが、株式移転により持株会社となるS社を設立した。
・共通支配下の取引に該当する
・適格株式移転に該当する
・P株主はA社株式を帳簿価額100で保有している
・S社は新株を発行しP株主は対価の全てを株式で受け取る
株式移転直前のA社の貸借対照表 | |||
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諸資産 | 500 | 諸負債 | 200 |
資本金 | 100 | ||
その他利益剰余金 | 200 |
株式移転設立完全親会社の処理
企業会計上の基本的な考え方
① 株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)
ア 原則的な取扱い
株式移転完全子会社株式(旧親会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧親会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定する。② 株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)
株式移転完全子会社株式(旧子会社の株式)の取得原価は、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日における持分比率に基づき、旧親会社持分相当額と非支配株主持分相当額に区分し、次の合計額として算定する。
ア 旧親会社持分相当額については、株式移転完全子会社(旧子会社)の株式移転日の前日における適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定する。
イ 非支配株主持分相当額については、企業結合会計基準第45項により、取得の対価(旧子会社の非支配株主に交付した株式移転設立完全親会社の株式の時価相当額)に付随費用を加算して算定する。付随費用の取扱いについては金融商品会計実務指針に従う。株式移転設立完全親会社の株式の時価相当額は、株式移転完全子会社(旧子会社)の株主が株式移転設立完全親会社に対する実際の議決権比率と同じ比率を保有するのに必要な株式移転完全子会社(旧親会社)の株式の数を、株式移転完全子会社(旧親会社)が交付したものとみなして算定する。
企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針 第239項より抜粋
上記は、親会社と子会社が株式移転設立完全親会社を設立する場合について定めておりますが、単独で株式移転設立完全親会社を設立する場合も上記に準じるとされております(企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針第258項)。
つまり、投資が継続している持分に対応する株式移転完全子会社の取得については、取得原価を適正な帳簿価額による株主資本の額に基づいて算定し、新たな投資となる非被支配株主相当額に対応する株式移転完全子会社の取得については、時価に付随費用を加算して取得原価を算定します。
S社の会計処理
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | |
---|---|---|---|---|
A社株式取得 | A社株式 | 300 | 資本金 | 100 |
その他資本剰余金 | 200 |
A社の貸借対照表において、株主資本の額が300であるため、S社はA社株式を300で計上します。
前項の場合には、当該株式移転設立完全親会社の設立時の資本金及び資本剰余金の額は、株主資本変動額の範囲内で、株式移転完全子会社が株式移転計画の定めに従い定めた額とし、利益剰余金の額は零とする。ただし、株主資本変動額が零未満の場合にあっては、当該額を設立時のその他利益剰余金の額とし、資本金、資本剰余金及び利益準備金の額は零とする。
会社法計算規則 第52条2項
S社の株主資本の内訳は、株主移転計画に定めた通りとなります。債権者異議手続を実施しなくても、その他資本剰余金に算入可能である点が株式交換と異なります。
S社の税務上の処理
株式移転設立完全親会社の会計処理は、株式移転直前の株主数が50人未満であるかにより異なります。当該事案では、50人未満に該当します。
会計上の処理と異なるため別表調整が必要になります。
株式移転直前のA社の株主数が50人未満である場合
イ 当該適格株式移転の直前において株主の数が五十人未満である株式移転完全子法人の株式の取得をした場合 当該株式移転完全子法人の株主が有していた当該株式移転完全子法人の株式の当該適格株式移転の直前の帳簿価額
法人税法施行令 第119条1項十二イより抜粋
株主Pの株式移転直前の帳簿価額に付随費用を加算して継承します。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | |
---|---|---|---|---|
A社株式取得 | A社株式 | 100 | 資本金等の額 | 100 |
株式移転直前のA社の株主数が50人以上である場合(参考)
ロ 当該適格株式移転の直前において株主の数が五十人以上である株式移転完全子法人の株式の取得をした場合 当該株式移転完全子法人の当該適格株式移転の日の属する事業年度の前事業年度終了の時の資産の帳簿価額から負債の帳簿価額を減算した金額
法人税法施行令 第119条1項十二ロより抜粋
A社の全事業年度末の純資産の額に付随費用を加算して計上します。但し、前事業年度末から株式移転直前までに資本金等の額、又は利益積立金が増減している場合(※増資等)には、増減金額に基づいて調整を行います。
S社の別表5(1)
Ⅰ利益積立金額の計算に関する明細書 | ||||
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区分 | 期首現在 利益積立金額 | 当期の増減 | 差引翌期首現在 利益積立金額 | |
減 | 増 | |||
① | ② | ③ | ④ | |
子会社株式 | 0 | ※ △200 | △200 | |
資本金等の額 | 0 | ※ 200 | 200 | |
繰越損益金 | 0 | 0 | ||
差引合計 | 0 | 0 | 0 |
Ⅱ資本金等の額の計算に関する明細書 | ||||
---|---|---|---|---|
区分 | 期首現在 資本金等の額 | 当期の増減 | 差引翌期首現在 資本金等の額 | |
減 | 増 | |||
① | ② | ③ | ④ | |
資本金 | 100 | 100 | ||
資本準備金 | ||||
その他資本剰余金 | 200 | 200 | ||
利益積立金 | △200 | △200 | ||
差引合計 | 300 | △200 | 100 |
- 子会社株式
-
会計上、資本金、その他資本剰余金の合計で300増加しておりますが、税務上の資本金等の額は100しか増加しておりませんので、差額200の調整が必要になります。
利益積立金の調整は全体としては不要ですが、A社株式を売却することで調整項目が実現するため、上記のように内訳を区分して記載することが多くあります。
※ 組織再編による変動額であることが判別できるよう、別表に(※)を記載することがあります。決まった記載方法があるわけではなく、エクセル等で整理した資料を添付した方がより丁寧です。
株式移転完全子会社の処理
A社の会計処理
A社にとっては、株主が変わるだけであるため会計処理は不要です。
A社の税務上の処理
A社にとっては、株主が変わるだけであるため税務上も処理は不要です。
株式移転完全子法人株主の処理
P株主の会計処理
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | |
---|---|---|---|---|
S社株式取得 | S社株式 | 100 | A社株式 | 100 |
投資が継続しているため、A社株式がS社株式にそのまま振り替えられます。
P株主の税務上の処理
適格・非適格の概念ではなく、対価の全てが株式であるか否かにより処理が変わります。当該事案では対価は株式のみであるため、譲渡はなかったものとして取扱われます。
担税力の有無に配慮した取扱いと考えられます。
対価が株式のみの場合
11 内国法人が旧株(当該内国法人が有していた株式をいう。)を発行した法人の行つた株式移転(当該法人の株主に株式移転完全親法人の株式以外の資産(株式移転に反対する当該株主に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産を除く。)が交付されなかつたものに限る。)により当該株式の交付を受けた場合における第1項の規定の適用については、同項第1号に掲げる金額は、当該旧株の当該株式移転の直前の帳簿価額に相当する金額とする。
法人税法 第61条の2 第11項
2 居住者が、各年において、その有する株式(以下この項において「旧株」という。)につき、その旧株を発行した法人の行つた株式移転(当該法人の株主に法人税法第2条第12号の6の6に規定する株式移転完全親法人(以下この項において「株式移転完全親法人」という。)の株式以外の資産(株式移転に反対する当該株主に対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産を除く。)が交付されなかつたものに限る。)により当該株式移転完全親法人に対し当該旧株の譲渡をし、かつ、当該株式移転完全親法人の株式の交付を受けた場合には、第27条、第33条又は第35条の規定の適用については、当該旧株の譲渡がなかつたものとみなす。
所得税法第57条の4 第2項
株主が法人の場合には帳簿価額で譲渡したものとして扱われ、株主が個人の場合には譲渡がなかったものとされます。
借方 | 借方金額 | 貸方 | 貸方金額 | |
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S社株式取得 | 仕訳なし | ‐ | 仕訳なし | ‐ |
株式以外の対価が交付される場合(参考)
時価で株式を譲渡したものとして譲渡損益が計上されます。
その他の留意事項
共同株式移転の場合
複数社による株式移転で非支配株主が存在するケースについて説明しております。