のれん償却費はなぜ特定のスキームだけ損金算入可能なのか?

のれん償却費は、発生した取引の種類により損金に算入できたりできなかったりします。その理由は非常に難解であるため説明を記載いたしました。税務上、正確には資産調整勘定と呼称されます。

目次

のれんの認識には一般の売買取引との整合性が考慮されている

損益はいつ認識すべきかという古典的論点

以下のような場合に損益を認識すべきかという論点は昔からあります。
①保有している土地を売却して現金を得た
②保有している土地を機械装置と交換した
③保有している土地を他の土地と交換した

一般的な感覚として、①や②の場合は損益を認識すべきで、③は認識すべきでないと感じると思います。この根拠は、「投資の継続」という概念から説明されることがあります。

土地と土地を交換しても、同種の投資行動が継続しており、経済的実態に変化はないから損益を認識すべきえはないと説明するのです。逆に、②は、別種の固定資産と交換したことで、土地への投資は一度終了し、新たな投資が始まったと言えるので、損益を認識すべきなのです。

組織再編においても「投資の継続」という概念が採用されている

「新しい投資が始まったら、その時の時価で評価すべき。」という考え方を組織再編に適用すると、自社と関連のない会社を買収して合併する場合、つまり非適格合併の場合には対象企業の資産を全面的に時価で評価すべきとなります。

時価評価によりのれんが認識される

この、時価評価により様々な無形資産が認識されることがありますが、代表的なものがのれんです。従業員がもっているノウハウから発生する超過収益力などがのれんとして計上されます。

ただ、このように一般的な売買取引との整合性を考えて会計処理が組み立てられていることに鑑みると、のれんが損金算入できないことがあるのは不思議です。さらに、買収スキームによっては損金算入が許容されたり、されなかったりするのです。

非適格組織再編と事業譲渡だと損金算入できる

非適格組織再編、適格組織再編とは

投資が継続している場合の組織再編を適格組織再編、投資が継続していない場合の組織再編を非適格組織再編と言います。

非適格は、原則として時価評価がなされ、損益が生じることがありますから、税務面から課税が生じることもあります。そのため、できる限り適格組織再編になるようにスキームが構築されることが多いです。

事業譲渡は取引法上の行為

事業譲渡は組織法上の行為である組織再編と異なり、取引法上の行為です。今回、詳細な説明は割愛させていただきます。

なぜ、非適格組織再編と事業譲渡だけ損金算入が可能なのか考えていきましょう。

株式譲渡と非適格合併で考える

株式譲渡で取得した場合の課税関係

株式譲渡でのれんが発生した場合には、のれん償却費が損金算入できません。対して、非適格合併だと損金算入できます。そのため、両者の課税関係の比較からまず考えてみます。

株式譲渡では、以下のような課税関係になります。
①譲渡株主:分離課税(個人前提)
②被取得企業:取引の当事者ではなく課税なし
③取得企業の株主:取引の当事者ではなく課税なし
④取得企業:取得価格で取得した株式を資産計上し課税なし

非適格合併で取得した場合の課税関係

非適格合併では、以下のような課税関係になります。
①譲渡株主:配当課税(個人前提)
②被取得企業:売却損益発生し法人税による課税
③取得企業の株主:取引の当事者ではなく課税なし
④取得企業:課税なし

非適格合併の課税関係はやや複雑です。被取得企業は合併により消滅することになるのですが、資産負債の譲渡により対価を受け取り、かつ株主に対価を配当したという、「譲渡+配当」が擬制されて課税がなされます。

つまり、被取得企業の売却益に法人税が課され、さらに譲渡株主に配当課税がなされるのです。

非適格合併で被取得企業の譲渡損益に課税がなされるのは不思議

被取得企業は従来から事業活動を行ってきているものとします。利益を計上すれば、その時、法人税等が課税されているはずです。非適格合併により、資産負債の譲渡が擬制され、さらに法人税等が課税されるのは不思議です。

2重課税になっているように感じられます。株主への配当課税も、個人であれば益金不算入の取扱いは十分ではありませんので、3回課税されると言っても間違いではありません。

これに対し、株式譲渡スキームでは、譲渡株主に分離課税が発生しているだけなのが分かります。両スキームを比較すると、株式譲渡スキームの方が、譲渡サイドの課税が1段少ないのです。

ポイントは「スキーム全体に生じる税金」

のれん償却費の損金算入でスキーム全体の課税関係の調整を図っている

株式譲渡では、譲渡側の課税が1段少ない分、取得企業でのれん償却費が損金算入できません。すると、取得企業は将来の課税所得を減少させる効果が期待できませんから、譲渡条件に反映し、その分取引価格を押し下げると考えられます。

非適格合併では、譲渡側の課税が1段多い分、取得企業でのれん償却費が損金算入できます。すると、取得企業は将来の課税所得を減少させる効果が期待できますから、合併条件に反映し、その分取引価格を押し上げると考えられます。

株式譲渡スキームの方が有利

仮に株式譲渡で発生したのれんの償却費が損金に算入できてしまうと、非適格合併と課税関係の平等が図れないのが分かると思います。

しかし、非適格合併では、のれん償却費が損金に算入できるとはいえ、償却期間は5年となりますし、十分な課税所得が生じなければ、法人税等を減少させる効果も生じません。

そのため、株式譲渡スキームの方が有利であると言えます。ただし、これは一般論であって、欠損金の分布状況によっては一概に言えないため、専門家に相談することが大切といえるでしょう。

根本的原因は非適格合併で「譲渡+配当」が擬制されること

一番初めに述べた通り、取得時の時価評価という考え方は、一般的な売買取引との整合性を考えて組み立てられているにもかかわらず、税務上は、「譲渡+配当」を擬制していることから、このような歪みが生じていると言えそうです。

とはいえ、事業譲渡との整合性なども考えていくと、やむを得ないのかもしれません。ただ、このような歪みは、時として不可思議な課税関係を生み出すことがあり、業界全体の課題となっています。

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この記事を書いた人

PwCあらた有限責任監査法人の金融部門に所属。保険会社を中心とした会計監査、内部統制監査、各種コンサルティング業務に従事。AI化推進室に兼任で所属し、公認会計士業務の自動化を担当。

セコム損害保険株式会社、THホールディングス株式会社における、保険数理、金融派生商品の評価、予実統制、税務、M&A、企業再生、IPO支援の経験を経て、PEファンドJ-star傘下、株式会社Free Spark、株式会社CyberKnot、Mattrz株式会社のCFOを歴任。

2020年、AIknot会計事務所を設立し代表に就任。
2023年、AIknotコンサルティング合同会社を設立し業務執行代表社員に就任。

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