IPOにおける主幹事証券による審査項目

目次

初期的な審査は主幹事証券が主導

最終的には、証券取引所の上場審査になりますが、初期的には主幹事証券による引受審査に通ることが目標となります。主幹事証券がデューデリジェンスを行う内容の概要を紹介いたします。

主幹事証券は、会計や内部統制の専門家ではないため、この領域は監査法人が担当し、主幹事証券は監査法人の指摘事項に適切に対応しているかを審査します。

主幹事証券がどのような項目を審査するかを把握しておけば、IPOに向けた準備に役立てることができます。事前の情報収集が不十分だと、思いもよらず頓挫することになりかねません。

コーポレートガバナンス

株主総会・取締役会を法令に準拠して運営しているか

株主総会や取締役会でどのような事項を決議し、どのような頻度で開催すべきかは、会社法や判例で定められております。

法令に準拠した運営は、このような領域の専門知識を持った人材を採用する前の段階においては容易なことではありませんが、少しずつ体制を整備していくことになります。また、これらの合議体は全社的内部統制として位置づけられるため、法令を遵守しているだけでは足りず、適切にモニタリングをしていると説明できる運営体制にする必要があります。

  • 株主総会、取締役会が定期的に開催されている
  • 監査役会、又は監査委員会が定期的に開催されている
  • 役員の選任、役員報酬の決定が法令に従って決議されている
  • 会社法に基づく決算公告を行っている
  • 計算書類、議事録が作成され保管されている

コーポレートガバナンスコードに準拠しているか

上場すると、多数の少数株主が生じることになります。そのため、少数株主の利益がきちんと確保できる体制にあるかは重要な審査項目となります。

独立性のある社外取締役や監査役が十分かつ適切に設置され、経営意思決定のモニタリングがなされていることが大切です。その他、コーポレートガバナンスコードに準拠した体制になっているかが審査されます。

  • 退任した取締役の退任理由に健全な会社運営を疑わせるものはない
  • 取締役は大株主からの紹介で選任されておらず少数株主を含む株主全体に貢献できる
  • 社外取締役、社外監査役が十分に選任されている
  • 常勤監査役は十分な出社頻度で業務を行っている
  • 監査役は内部監査人、会計監査人と適切な連携を行っている
  • 監査役に財務会計、法律の専門家(有資格者)が含まれている
  • 役員報酬は客観的な指標により決定され同業他社と比較して適切な水準になっている

関連当事者取引は最小限に留められているか

関連当事者取引は、不公正な取引条件が成立しやすいため、開示が義務付けられています。開示が義務付けられているだけであり、禁止はされていないはずですが、IPO審査においては、関連当事者取引は原則としてなくすように求められます。

創業者取締役からの借入、賃貸、保証契約等があることは決して珍しくありませんが、できる限りなくして、事業運営上やむを得ないものに留める必要があります。関連当事者取引でなくても、会社が公の存在になる訳なので、そぐわない取引や契約はなくさなくてはなりません。

  • 関連当事者、関連当事者取引が網羅的に把握されている
  • 関連当事者取引はできる限り解消されている
  • 株主、役員の関係者に特別の便宜をはかっていない
  • 会社の財産を私的に費消していない
  • 利益相反取引、競業取引はない

コンプライアンス

労務関係のコンプライアンス体制確立

長期的・安定的に法令を遵守していけることを示す必要があります。その上で、労務関係のコンプライアンスに苦戦される企業は多くいらっしゃいます。

例えば、残業時間は原則として45時間以内に留めるように要請されており、特別条項はあくまでも臨時的な理由がある場合に許容されているに過ぎません。そのため、45時間以内の残業時間を長期的安定的に維持する必要があります。

人材の離職等により、一時的に残業時間が増加することは十分に想定されることに鑑みると、平時の残業時間は30時間以内におさめるぐらいでないと、審査の要求水準に達していないと判断される懸念があります。

そして、残業時間は勤怠管理ソフトだけでなく、PCのログ等を収集して精緻に管理していることが好ましいとされます。

知的財産権を適切に保護しているか

商標権や特許を適切に取得し、安定的に事業の競争優位性を維持している必要があります。主力商品の商標が取れない、かつ他社に取得される可能性が高い場合には懸念材料となります。

  • 事業活動上重要な商標権、特許等が取得されている
  • 他社の知的財産権を侵害している懸念はない
  • 弁理士から適時助言を得て事業遂行を行っている

個人情報保護法、下請法、労働基準法、独占禁止法他

その他にも、運営している事業に係る法令に違反していないかを、弁護士の調査を受けて検討しなくてはなりません。個人情報保護法、下請法、労働基準法、独占禁止法、許認可など、IPO準備に入る前段階で体制が整備されている例はほぼなく、法務の専門人材の採用も必須になると思われます。

  • 顧問弁護士から適時意見を得たうえで事業を遂行している
  • 定期的に法務デューデリジェンスを受けている
  • 定期的に労務デューデリジェンスを受けている
  • 労働基準監督署、社会保険事務所、税務署等から指摘や改善命令を受けていない
  • 許認可を適切に取得している
  • 進行中の訴訟はない

内部統制の整備・運用

大部分は監査法人による監査対象

内部統制は会計理論と深く結びついているため、監査法人の監査範囲となり、主幹事証券の審査は監査法人の指摘に対応しているかによって原則としてなされます。

しかし、監査法人による内部統制監査は、あくまでも財務報告の適切性を評価するためのものであるため、財務報告と関連のない内部統制においては主幹事証券による審査が実施される場合もあります。

情報セキュリティ管理や内部通報制度などが挙げられます。なお、内部統制の整備・運用はIPO準備において関門となることが多いです。

  • 監査法人の内部統制監査において適正意見を得ている

情報セキュリティ管理体制

インサイダー情報を扱うようになるため、情報端末の管理等は適切になされる必要があります。鍵のかかる個別ロッカーや出入口の施錠などは、設置不可能な場合もあり、体制強化のために転居する例もあります。

共有メールアドレスの管理、IDの棚卸、パスワードの管理体制等、対応項目は多岐に及びます。

  • WEBストレージのアクセスIDは必要な範囲で適切に付与されている
  • 不要になったWEBストレージのIDは適時削除されている
  • パスワードがルールに従って使用されている
  • 不正なアクセスログがないか定期的にチェックされている
  • 情報端末の保管場所は施錠されている
  • 情報端末は個人、プロジェクトごとに管理され無関係な従業員が持ち出すことはできない
  • 情報端末にインストールするソフトウエアは会社が適切に把握、管理している
  • 業務用と私用の情報端末が明確に区別されている
  • 不要になった情報端末は適切に廃棄されている
  • オフィスは施錠され退職従業員等が立ち入ることはできない

内部通報制度はほぼ必須

会社の不正は、内部通報によって発覚することが圧倒的に多いです。理論上は、内部通報制度でなくても、通常の報告経路と異なる経路を用意し、適切な情報収集を実施し自浄作用を発揮すればよいはずですが、実務上は必須で求められるといっても過言ではありません。

  • 実際に通報、是正措置が実施された実績がある
  • 内部通報制度の存在が従業員に周知されている
  • 外部窓口を設置していることが好ましい

内部監査人の設置

監査法人は運営している事業については専門外であるため限界が生じる部分もあります。そのような側面を補填するのが内部監査人であるため、内部監査人の設置、指摘事項、及び是正活動は厳しく審査されます。

監査役監査よりも内部監査の方が重視されるイメージを持っております。

  • 内部監査人が内部統制、会計、監査に関する専門的知見を有している
  • 実際に問題点が検出され、是正処理が行われた実績がある

ディスクロージャー

ディスクロージャーは、会計の専門知識が深くかかわるため、主幹事証券の審査は監査法人の指摘に対応しているかによって原則としてなされます。

しかし、十分な数の経理人材を採用できているか、経理人材が専門的知見を有しているかは審査の対象となります。

  • 監査法人の準金融商品取引法会計監査において適正意見を得ている

ビジネスモデル

安定的に成長するビジネスでなくてはならない

特定の顧客に依存してる、あるラインセンスが供給されないと事業価値を維持できない等の状況にあると好ましくありません。

主幹事証券も、ディストリビューターの責任として、取り扱う株式は安定的に成長するものでなくてはならないと考えるからです。

  • 経営計画が客観性をもって策定され管理されている
  • 属しているマーケットが安定的に拡大している
  • 法規制如何によって業績が急激に変動しない
  • 競合他社に対して差別化できている
  • 特定のアウトソーシング先に依存していない
  • 特定の契約、許可、提携に依存した事業運営になっていない
  • 特定の人材に依存した事業運営になっていない

公序良俗に違反していないか

法令順守しているだけでは足りず、模範的なビジネスモデルである必要があります。特に日本ではこの傾向が強く、批判的な目を向けられることもあるビジネスだと、IPOは厳しいと捉えられてしまうこともあります。

  • 広告や宣伝の中で過剰な表現を行っていない
  • 賭博や風俗に関連する商材を扱っていない
  • 社会一般に受け入れられない事業活動は実施していない
  • 海外子会社等で劣悪な環境で従業員を働かせていない
  • 取引先には適正な対価を支払っている
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AIknot会計事務所/AIknotコンサルティング合同会社
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監修者

PwCあらた有限責任監査法人の金融部門に所属。保険会社を中心とした会計監査、内部統制監査、各種コンサルティング業務に従事。AI化推進室に兼任で所属し、公認会計士業務の自動化を担当。

セコム損害保険株式会社、THホールディングス株式会社における、保険数理、金融派生商品の評価、予実統制、税務、M&A、企業再生、IPO支援の経験を経て、PEファンドJ-star傘下、株式会社Free Spark、株式会社CyberKnot、Mattrz株式会社のCFOを歴任。

2020年、AIknot会計事務所を設立し代表に就任。
2023年、AIknotコンサルティング合同会社を設立し代表社員に就任。

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