企業においてCFOが必要とされる理由
日本CFO協会が定めるCFOの役割と存在意義
一般社団法人日本CFO協会では、CFOの存在意義と役割について以下のように記載されております。
企業価値の向上を図ると共に、世界の基準に合わせた透明性を確保する財務管理力を強化し、さらには財務戦略を経営戦略に取りこみ企業活動をマネジメントしていくのがCFO(最高財務責任者)であり、これからの企業の勝敗を分ける重要な鍵を握っているのです。
一般社団法人日本CFO協会 「CFO(最高財務責任者)とは」より抜粋
「財務戦略を経営戦略に取りこみ企業活動をマネジメントしていくのがCFO」と記載されておりますが、ここにCFOの存在意義が端的に説明されております。
なぜCFOが必要なのか
CFOの必要性が語られるようになる以前、日本には類似のポジションだと財務部長という役割しか用意されておりませんでした。財務部長しかいないと何が問題なのかを考えていくことで、CFOの必要性が見えてきます。
財務部長は、あくまでも財務面の管理責任者として、資金調達や資金の支出入の管理しか実施しておりませんでした。財務報告制度の発達、内部統制の強化により職務分掌が一層明確になると、包括的な観点からマネジメントを行う者がいないというデメリットが顕在化してきます。
経理部長は、財務報告制度に基づく有価証券報告書の作成など開示業務の専門家として位置づけられることが多く、財務面から経営戦略へのアプローチは、経営企画部が担うようになってきました。経理部は、「経営管理部」ですから、経営判断に資する資料等を広範に提供するのが本来ですが、戦略サイドの「攻め」の部分は経営企画部が担うなど、さらに職務が分担されてくるようになってきた訳です。
このように職務分掌が明確になりすぎると、財務、経理、経営企画の視点を統合して経営判断をサポートするという機能がおろそかになってきてしまうという問題が生じました。そこでCFOが必要とされるようになったのです。
CFOの役割は財務・経理・経営企画を統合すること
つまり、CFOの役割は、財務部、経理部、経営企画部を横断的に管理することで、財務戦略を経営戦略に落とし込むことであると言えます。「攻め」と「守り」の結合が役割であると言い換えてもよいかもしれません。
CFOがいないと様々な問題が生じます。例えば、経理部の会計処理一つとっても、資金調達にどう影響するのか、投資家にはどう映るのか、財務状況へのインパクト、財務諸表を財務報告制度の趣旨に即して開示できているかなど、様々な観点からの検討が必要となります。
これらの知見を併せ持ち、バックオフィスを横断的に管理してまとめ上げるのがCFOの役割です。
よくあるのが、CFOは資金調達の専門家だという誤解です。バブル崩壊の影響から、直接金融の重要性が高まったこともあり、金融機関を介さない資金調達能力への需要からCFOが普及したことも事実です。
しかし、これはあくまでも当時の財務部長が間接金融による資金調達の知見に偏っていることが多かったため、CFOに直接金融による資金調達の知見が要求されたというだけの事情であって、資金調達の専門性は本来財務部長が有しているはずのものなので、CFOを資金調達の専門家と限定的に解してしまうとその存在意義が没却してしまうため、誤った解釈であると考えられます。
CFOに求められるキャリアとは?
役割が分かると必要となるキャリアも見えてくる
一般社団法人CFO協会が発行している書籍などを閲覧すると、CFOに求められるキャリアは、経理部、財務部、経営企画部での経験が主軸になると紹介されております。
先述したCFOの役割を理解すると、同時に必要となるキャリアも見えてきて、頷くことができるのではないでしょうか。その全てを網羅する必要性はありませんが、投資家との対話は上場企業であれば有価証券報告書が中心となってくることなどから、経理畑の経験は必須であると一般に考えられております。
求められるCFO像は企業の状況により様々
企業を取り巻く環境による違い
例えば、ロボットの開発を行う企業で起業から5年間は売上高が発生しないという事例を拝見したことがあります。このような企業は、資金調達を行う難易度が上がるため、CFOに求められる資金調達に係る能力の比重は上昇します。
起業間もない企業は、日本政策金融公庫、地方銀行、信用組合から資金調達するのが一般的ですが、これらの金融機関は確実に返済を見込める場合にしか融資しないという考え方であるため、長期安定的に黒字にならないと一定以上の金額は融資してくれません。
そのため、5年間は売上高が生じないとなってしまうと、VC(ベンチャーキャピタル)からの資金調達を目指すことになります。VCは、企業の成長性に投資を行う形態であり、成功した案件で数倍、数十倍のリターンを得て全体の収益性を確保するという考え方であるため、リスクの高い企業でも資金調達を狙うことができます。
しかし、VCから資金調達を行うためには、投資家との直接的なコミュニケーションにより、企業の成長性をアピールする必要があります。そのため、直接金融に長けたCFOが必要になると言えます。
「ファイナンス型CFO」と「ガバナンス型CFO」の違い
VCから長期的に資金調達を反復して行い、企業の成長を目指す場合、直接金融に長けた証券会社や投資銀行出身のCFOが選任されることになります。「ファイナンス型CFO」と呼称されたりします。
反対に、長期安定的に黒字を計上しており、ExitとしてIPOを目指すような案件では、地方銀行等から資金調達が可能であるため、CFOに資金調達能力を過度に求める必要性はありません。地方銀行等は、企業内部に専門家を有していない中小企業への融資を日々行っているため、ファイナンスの専門家がいなければコミュニケーションが難しい構造にはなっていないためです。
IPOを目指す場合、監査法人や主幹事証券と対話しながら、開示体制、内部統制の整備を行っていく業務が中心となりますので、監査法人出身のCFOが適合します。「ガバナンス型CFO」と呼称されたりします。このように、CFOに求められる能力は企業を取り巻く環境により変化するため、原則論に拘ることなく、状況に応じた選任が大切であると考えられます。
企業のステージによってCFOを替える例も多い
先に挙げたロボットを開発している企業の例で言えば、研究開発段階ではファイナンス型のCFOが適合すると思いますが、実際に売上高が伸びてきて、安定的に黒字となり、ExitとしてIPOを中心に検討するのであればガバナンス型のCFOに交代した方がよいと考えられます。
IPOを達成した後、上場企業としての立場を生かした資金調達が経営課題の中心となってきたため、ガバナンス型のCFOからファイナンス型のCFOに交代する例も多くあります。
このように、企業のステージの変化に応じてCFOを交代する例は珍しくなく、合理的な考え方であると言えます。CFOの存在意義に係る基本的な考え方を踏まえつつ、状況に応じて柔軟な対応を行うことが大切であると思います。