高くするデメリットもある
初回の資金調達で高くしてしまいがち
どの企業も、ほとんどが序盤は単一の株主しかいません。そのため、いざ増資によって資金調達をしようとする際に、過度に高いバリュエーションを提出してしまうことが多くあります。少ない株式数で多くの資金を調達できるからです。
しかし、バリュエーションを高くしてしまうデメリットは様々あります。税務面の問題もありますが、本稿では触れません。
1回目の資金調達をとにかく高いバリュエーションでやってしまうと、2回目の資金調達の際に苦慮する可能性があります。事業が順調に成長しており、1回目よりも高い株価で資金調達を行えるのであれば何も問題はありません。
しかし、事業が失速してしまった場合はどうなるのでしょうか。あるいは、ある程度展望が具体性を帯びてきて、想定程の成長は見込めなそうだという場合は如何でしょうか。2回目の増資で、1回目よりも安い株価に設定する「ダウンラウンド」にせざるを得ませんが、1回目の増資に応じた株主価値の希薄化をもたらすため、衝突の要因となりかねません。
既存株主との投資契約によっては、2回目以降の資金調達が困難になる可能性もあります。このようにして、初期のバリュエーションを高くしすぎてしまったがため、以降の資金調達が頓挫し、成長が描けなくなってしまうこともあるのです。
希薄化防止条項(Anti-Dilution Provisions)
増資に応じるVC(ベンチャーキャピタル)からすれば、低廉な新株の発行により株主価値が希薄化する事態は避けたいはずです。特に、未上場企業では客観的な株価がありませんので、あえて低廉な株価で新株を発行し株主間の富の移転をもたらすようなこともできてしまいます。故に、投資契約に希薄化防止条項が付されることがあります。
種類株式の転換価額などを使用し、ダウンラウンドでの新株発行をトリガーにして転換価額を調整し持株比率を維持する条項です。この場合、普通株式を保有している創業者の持株比率が減少することになってしまいます。
フルラチェット方式の場合
- 設立時
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創業者が資本金10,000千円で会社を設立
発行済株式数:1,000株
株価:10,000円 - 1回目の資金調達
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ベンチャーキャピタルAから300,000千円を第三者割当増資で資金調達
株主価値のバリュエーションは3,000,000千円
新規発行株式数:100株
株価:3,000,000円 - 2回目の資金調達
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ベンチャーキャピタルBから100,000千円を第三者割当増資で資金調達
株主価値のバリュエーションは1,100,000千円
新規発行株式数:100株
株価:1,000,000円 - 希薄化条項の効果
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1回目の資金調達で設定された株価を下回る条件で2回目の資金調達が行われました
これをトリガーにして希薄化条項が適用されますベンチャーキャピタルAの保有株式数
300,000千円(1回目の資金調達額)÷1,000,000円(2回目の資金調達時の株価)=300株
100株⇒300株に増加
希薄化防止条項は、創業者の持株比率の低下をもたらす形でベンチャーキャピタルAの持株比率を保ちます。このような条項を付さなければ増資に応じてくれないこともあります。
高すぎるバリュエーションは以降の資金調達を難しくする
希薄化防止条項がなくても影響はある
ダウンラウンドでの資金調達は様々な軋轢を生みだします。初期段階で出資に応じてくれた既存株主とは、資本関係以外にも事業上の提携があったり、結びつきがあることがほとんどです。
希薄化防止条項がなければ、ダウンラウンドにより既存株主の持株比率は希薄化しますし、その後も株主としての地位は残ります。このような側面が要因となって以降の資金調達が難しくなってしまう可能性は十分に考えられるでしょう。
安すぎるバリュエーションでは十分な資金調達ができない
ダウンラウンドを恐れて安すぎるバリュエーションを行ってしまうと十分な資金調達ができません。営われている事業に関して深い知見を持った人材が、事実に即した適切なバリュエーションを行うことが大切であると言えます。