青色専従者給与の制度趣旨
同族会社経営者等との公平性
法人を設立して事業を営んでいる同族会社の経営者は、配偶者その他の親族を役員にするなどして役員報酬・給与を支払い、所得の分散をはかることが可能です。所得税は、個人単位の累進課税となりますので、所得を分散させると税負担が軽減されます。
個人事業主の配偶者やその他の親族が、他で就業した場合も同様のことが言えます。配偶者その他の親族が他の企業から給与所得を得て、不足する労働力を代替人材により補填すれば、所得が分散され税負担が軽くなります。
一方で、配偶者その他の親族と共同で事業を営む個人事業主に対し、所得の分散を一切認めないとすれば、著しく課税の公平性を欠くため、世帯内部での対価の支払いは必要経費に算入させないことを原則としながらも、一定の要件の下、青色専従者給与として対価を支払う場合には必要経費への算入が可能な仕組みとなっております。
所得分散により税負担が軽減される主要因
上記の通り、適用される所得税率が低くなるという要因の他に、給与所得控除や個人事業税が強く影響します。
給与所得控除は最低でも55万円が適用でき、給与所得に対しては個人事業税がかかりません。そのため、一般に大きな節税効果となります。
デメリットとしては、配偶者控除・扶養控除の併用はできない点、及び事業主の社会保険料が上限に達している場合、青色専従者給与を支給することで世帯単位での社会保険料の負担が増加することがあります。
片働世帯の給与所得者(サラリーマン)は所得分散ができない
個人事業主、同族会社経営者、給与所得者の共働世帯は、所得を分散させて税負担の軽減が可能である一方、片働世帯には所得の分散が現行税制において認められておりません。
1987年に創設された配偶者特別控除は、本来課税の公平性を確保する観点から配偶者控除に上乗せした控除を認めるものでしたが、2003年改正により現行の仕組みに変更されました。すなわち、現行制度は片働世帯の給与所得者のみ税負担が重くなる一部バランスを欠くものになっております。
青色専従者給与の適用要件
適用要件の概要
(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)
所得税法 第57条より抜粋
第五十七条 青色申告書を提出することにつき税務署長の承認を受けている居住者と生計を一にする配偶者その他の親族(年齢十五歳未満である者を除く。)で専らその居住者の営む前条に規定する事業に従事するもの(以下この条において「青色事業専従者」という。)が当該事業から次項の書類に記載されている方法に従いその記載されている金額の範囲内において給与の支払を受けた場合には、前条の規定にかかわらず、その給与の金額でその労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度、その事業の種類及び規模、その事業と同種の事業でその規模が類似するものが支給する給与の状況その他の政令で定める状況に照らしその労務の対価として相当であると認められるものは、その居住者のその給与の支給に係る年分の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上必要経費に算入し、かつ、当該青色事業専従者の当該年分の給与所得に係る収入金額とする。
適用要件は、箇条書きにすると次の通りです。
(1)青色事業専従者に支払われた給与であること。
- 青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族であること。
- その年の12月31日現在で年齢が15歳以上であること。
- その年を通じて6か月を超える期間、その青色申告者の営む事業に専ら従事していること。
(2)期限までに「青色事業専従者給与に関する届出書」を所轄税務署長に提出していること。
(3)届出書に記載されている通りに支給されていること。
(4)青色事業専従者給与の額は、労務の対価として相当であると認められる金額であること。
「専ら従事」の意義
「専ら従事」しているかの解釈は困難な側面があります。所得税法施行令において、期間に関しては明文での言及あり、専ら従事する期間に該当しない具体例も挙げられておりますが、それ以外の判断基準について明文の規定がないためです。
(親族が事業に専ら従事するかどうかの判定)
所得税法施行令 第165条より抜粋
第百六十五条 法第五十七条第一項又は第三項(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)に規定する居住者と生計を一にする配偶者その他の親族が専らその居住者の営むこれらの規定に規定する事業に従事するかどうかの判定は、当該事業に専ら従事する期間がその年を通じて六月をこえるかどうかによる。ただし、同条第一項の場合にあつては、次の各号のいずれかに該当するときは、当該事業に従事することができると認められる期間を通じてその二分の一に相当する期間をこえる期間当該事業に専ら従事すれば足りるものとする。
一 当該事業が年の中途における開業、廃業、休業又はその居住者の死亡、当該事業が季節営業であることその他の理由によりその年中を通じて営まれなかつたこと。
二 当該事業に従事する者の死亡、長期にわたる病気、婚姻その他相当の理由によりその年中を通じてその居住者と生計を一にする親族として当該事業に従事することができなかつたこと。
2 前項の場合において、同項に規定する親族につき次の各号の一に該当する者である期間があるときは、当該期間は、同項に規定する事業に専ら従事する期間に含まれないものとする。
一 学校教育法第一条(学校の範囲)、第百二十四条(専修学校)又は第百三十四条第一項(各種学校)の学校の学生又は生徒である者(夜間において授業を受ける者で昼間を主とする当該事業に従事するもの、昼間において授業を受ける者で夜間を主とする当該事業に従事するもの、同法第百二十四条又は同項の学校の生徒で常時修学しないものその他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)
二 他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く。)
三 老衰その他心身の障害により事業に従事する能力が著しく阻害されている者
「専ら従事」していると認められるかは「専ら事業する期間」による判定とし、原則は6か月超える期間の従事が必要とされますが、従事できない期間があった場合には、従事できる期間の2分の1超を従事すれば足ります。
原則:その年の6カ月超の期間
例外:従事可能な期間の2分の1超の期間
例外法が適用できる要件
- 開業、廃業の年など、その年を通じて事業が営まれていない場合
- 従事者が死亡した場合など、事業に従事することができない期間が存在する場合
また、「専ら従事する期間」に含まれないものとして、次の具体例が挙げられております。
「専ら従事する期間」に含まれないもの
- 学校の学生又は生徒であった期間(夜間学校等は除く)
- 他に職業を有していた期間(職業に従事する時間が短い場合等を除く)
- 老衰その他心身の障害により事業に従事する能力が著しく阻害されていた期間
「専ら従事」の期間以外の判断基準
上記の通り、法令等においては主に期間しか言及されておりません。そのため、1日あたりの従事時間は短くてもよいのか、1週間当たりの従事日数はどの程度必要なのか、という論点は解釈に委ねられることなります。
Aの業務のうち中心的な部分を占める賃料や電気料等の集金その他入出金に係る事務自体その事務量はごくわずかであり、短時間に片手間的に処理し得るものと言えるし、その他の業務に関してもいずれも例外的一時的なものに過ぎず、それらのために要した延べ従事日数はわずかなものであつたと言い得べく、Aが原告の業務に従事のために常時出勤を要したとは到底認められない。
(中略)
以上認定の事実によれば、Aが原告の不動産賃貸業に専ら従事したものとは到底認められないし、事業専従者について所得税法施行令は、165条において事業に専ら従事するかどうかの判定につき従事期間の制限を規定するのみで、専従者の範囲についてはこれを特に規定していないけれども同条2項が、他に職業を有する者(その職業に従事する時間が短い者その他当該事業に専ら従事することが妨げられないと認められる者を除く)については、その期間を専ら従事した期間には算定しない旨規定していることに照らしても、Aが所得税法57条1項の青色事業専従者に該当しないことは明らかである。
山口地方裁判所 昭和58年3月17日判決
画一的な解釈はありませんが、事業に常時出勤を要すると認められる必要があり、臨時的な業務を担当していたり、片手間と呼ばれる業務量をこなしているだけでは足りないとされています。
「労務の対価として相当であると認められる金額」の意義
青色専従者給与の金額は、上限等が具体的に定められている訳ではなく、次の通り判断基準が述べられております(所得税法第57条、所得税法施行令第164条)。
労務の対価として相当であるかの判断基準
- 青色事業専従者の労務に従事した期間、労務の性質及びその提供の程度
- その事業に従事する他の使用人が支払を受ける給与の状況
- その事業と同種の事業でその規模が類似するものに従事する者が支払を受ける給与の状況
- その事業の種類及び規模並びにその収益の状況
独立第三者間の取引ではありませんので、時価で給与を支給し、恣意的な所得の調整とならないよう注意する必要があります。