起業して会社設立する際に悩むのが本店所在地をどこにするかです。人気のバーチャルオフィスは予期しないデメリットもありますので、一歩踏み込んで比較・解説いたします。
会社本店所在地の選択肢について
起業してすぐに一般的なオフィスを賃貸するのはハードルが高い
起業してすぐに一般的なオフィスを賃貸するのは困難な場合が多いです。これは、住宅と異なり敷金、保証金の負担が非常に重く、賃料相場も高額であるためです。
敷金や保証金が高い理由は、退去時に自然減耗に対する現状復旧義務を超えて対応を求められる契約になっていることが慣習上多いためだと考えられます。月額賃料の6~12か月分を求められるのが通常です。
賃料も、住宅と違って水回りが少ないため経年劣化がさほどなく、古い物件でもあまり下がりません。その立地で得られる収益に基づいて賃料の相場が形成されるため、住宅と比較すると非常に高額である場合が多いです。そのため、住宅用のマンションをオフィスにされる方も珍しくありません。
一般的な選択肢は3つ
上記の理由から、一般的な選択肢は3つになります。
起業時の会社本店所在地の一般的な選択肢
- バーチャルオフィス
- レンタルオフィス
- 自宅
推奨は自宅かレンタルオフィス、非推奨はバーチャルオフィス
状況により異なるため一概には言えませんが、推奨は自宅かレンタルオフィス、非推奨はバーチャルオフィスです。その具体的な理由を解説いたします。
知っておきたい前提知識
会社の本店所在地と代表者の氏名及び住所は登記事項として公開される
商取引が円滑に行われるためには、訴訟の提起など権利行使の機会が確保されていなくてなりません。訴状が被告に到達して初めて訴訟を起こすことができるため、会社の本店所在地、代表者の氏名及び住所は誰でも知ることができる状態にしておく必要があります。よって、会社の本店所在地と代表者の氏名及び住所は登記事項として法務局に登記され、公開されます。
(株式会社の設立の登記)
第九百十一条 株式会社の設立の登記は、その本店の所在地において、次に掲げる日のいずれか遅い日から二週間以内にしなければならない。3 第一項の登記においては、次に掲げる事項を登記しなければならない。
会社法 第911条1項、3項より抜粋
一 目的
二 商号
三 本店及び支店の所在場所
十四 代表取締役の氏名及び住所(第二十三号に規定する場合を除く。)
なぜ代表者の住所も必要なのか?
取引の効力を会社に帰属させる代表権は、代表者のみにあるのが原則です。取引先としては代表者を特定しないと取引ができません。同姓同名の人物が存在するため、住所まで公開して初めて代表者を特定することができます。
また、会社法429条(役員等の第三者に対する損害賠償責任)による賠償請求等、役員の氏名住所が必要になる場合は多岐に及びます。訴訟についても、本店所在地に訴状を送達できなければ、次に選ばれるのは代表者住所です。
代表者個人の住所を出したくない人は多い
代表者個人の住所を出したくない人は非常に多くいらっしゃいますが、まったく開示しないというのは難しい場合が多いというのが結論です。
ただ、建物名や部屋番号まで登記が義務付けられている訳ではありませんので、共同住宅であれば一部省略することで、完全な特定を避けることは可能です。代表者住所に事業上の郵送物が届くことは多くありませんので、支障も生じないと考えられます。
しかし、本店所在地については郵送物が届かなければ事業活動が行えないため、仮に本店所在地を自宅とする場合には記載を省略する訳にはいかず問題となります。そこで選ばれているのがバーチャルオフィスです。
代表取締役等住所非表示措置について
2024年に「代表取締役等住所非表示措置」が施行され、代表者の住所の表示を市区町村までに留めることができます。
ただ、その会社の代表者であることを証明することが難しくなるため、安易に利用しない方がよいと考えられます。代表者住所が市区町村までしか登記されていなければ、取引先としては同姓同名の別人と区別がつきません。会社印鑑登録証明書で代替する方法が実務上検討されているようですが、会社印鑑登録証明書には代表者の住所が記載されません。
バーチャルオフィスの特徴
バーチャルオフィスとは?
バーチャルオフィスは、住所のみを借りるサービスを指すことが多いようです。
バーチャルオフィス業者がビルの1室を借りるなどしており、当該住所を会社の本店所在地として使用させて貰えるサービスです。当然、本店所在地に郵送物等が届きますが、転送サービスで別に指定する住所に転送することが可能です。
バーチャルオフィスは、事業活動を行う執務スペースがない点が特徴です。会議室やコピー機の利用ができる場合もあるため、これらの付随サービスを利用するためにバーチャルオフィスを利用される方もいらっしゃいます。
コーワーキングスペースという類似のサービスもある
バーチャルオフィスと類似の形態で、フリースペースのような形で執務スペースが提供されるサービスもあり、コーワーキングスペースと呼ばれることが多いようです。
占有スペースはありませんが、実際に該当住所で事業活動を行う点がバーチャルオフィスとは異なります。非常に安価であるため、創業間もない事業者に利用されることが多くありますが、占有スペースがないため設備等を配置することができず、作業効率が悪化する場合があるのがデメリットです。
デメリット① 口座開設が難しい場合がある
法人の口座開設は、個人の口座開設と比較すると審査がかなり厳しいものになります。バーチャルオフィスは、登記に使用する住所を安価に借りられるという特徴から、ペーパーカンパニーの本店所在地として多く利用されているという実態があります。従って、本店所在地がバーチャルオフィスだと、事業実態に疑義が向けられることになります。
特に、都市銀行では本店所在地がバーチャルオフィスであることを理由に口座開設を断られることが珍しくありません。また、事業実態の有無さえ疑われてしまうのは金融機関に限った話ではなく、取引先も同様です。
デメリット② 金融機関に融資の審査を拒否されることがある
先述の通り、訴訟を起こすためには訴状の送達が必要です。訴状は、「特別送達」という方法で送達されますが、バーチャルオフィスは特別送達の受け取りができません。バーチャルオフィスには本人がいないわけですから、本人しか受領できない郵便物を受け取れないのは当然と言えば当然で、利用規約にも記載されます。
金融機関からすると、万一返済が遅延した場合等に、円滑に権利行使ができないことが想定されるため、忌避される要因となります。
日本政策金融公庫等、金融機関によってはバーチャルオフィスであることを理由に審査を拒否しないこともありますが、利子保有制度等を加味して最も条件のよい金融機関で融資を受けられるかは金利負担に大きく影響するため、無視することはできません。
レンタルオフィスの特徴
レンタルオフィスとは?
レンタルオフィスは、一般的なオフィスとほぼ同じ形態で占有スペースも賃貸します。特徴としては、会議室、コピー機、カフェ設備等を共有としていることが特徴です。
最小で5~6平米の部屋からあるため、必要な広さだけ借りることができるのが一般的な賃貸オフィスとの違いです。占有スペースが壁で仕切られておらず、椅子と机のみの場合もあります。壁で仕切られている場合には、借地借家法が適用される「建物」に該当すると考えられます。
メリット① 高いコストパフォーマンス
レンタルオフィスは、共有スペースや共有設備を設けることで占有スペースを最小限に留め、高いコストパフォーマンスを実現しています。
駅前等の一等地にあることが多いですが、立地を踏まえると非常に価格が安くすみます。敷金や保証金もほとんど発生せず、コピー機、スキャナー、シュレッター、業務用ホッチキス、裁断機等の比較的高価な備品も備え付けられているため、初期投資を抑えて事業を開始できます。
デメリット① 従業員がいると選択肢から外れることが多い
レンタルオフィスがコストパフォーマンスに優れているのは、占有スペースを最小限にしているためです。共有スペースは、複数の事業者が並行して利用するため、安価な価格設定にしても事業として成立するという特徴があります。
しかし、従業員を雇用すると最小限の占有スペースで一緒に執務するというのは忌避される可能性が高く、ある程度の広さの部屋に移る必要性が出てきます。レンタルオフィスは一等地にあることが多く、坪単価はむしろ高い部類に入るため、一般的な広さの部屋を前提にすると金額も高価になります。そのため、従業員の雇用を開始する時点で一般的なオフィスに引っ越すのがことが多くあります。
デメリット② 取引先から実績がないと思われる
レンタルオフィスは、その特徴から創業間もない事業者に多く選ばれており、一定規模に達したらレンタルオフィスから出ていくことが多くあります。そのため、本店所在地がレンタルオフィスであることを理由に、まだ創業間もない実績のない事業者だと取引先から判断される可能性があります。
実際には、一概に断定できるようなものではありませんが、レンタルオフィスのサービスが創業間もない事業者向けに設計されているのは間違いのない事実ですので、イメージとしてはやむを得ないものと考えられます。
デメリット③ 会議室が使えないことがある
事業活動に顕著な悪影響を及ぼす特徴として、会議室が使えないことがあるという点が挙げられます。
会議室、コピー機、カフェ設備等が共有であることは先に述べましたが、来客があって会議室の予約が一杯で使えないというのは事業活動を行う上で致命的な欠点になり得ます。
事前にわかっていれば別の貸会議室を予約したりすることも可能ですが、取引先に事情を説明して負担をかけることになるため印象はよくありません。勿論、貸会議室が必ず空いているとは限りません。最悪の場合には、会議室の予約が取れないという理由でアポイントの変更を依頼しなくてはならない場面も出てきます。
自宅の特徴
自宅を会社本店所在地にするためには家主の許可が必要
自宅を会社本店所在地にすると、自宅の一部を法人に転貸借する形になります。詳細は下記の記事をご参照ください。

住宅用賃貸物件を賃貸する際の契約書には、通常転貸借を禁止する条項が挿入されております。民法でも規制されておりますので、転貸借にあたって家主の許可を取っておく必要があるというのが原則です。
デメリットはレンタルオフィスと概ね同様だがより顕著
デメリットについてはレンタルオフィスと概ね同様ですが、会議室がないため来客対応が困難ですし、取引先の信頼が得られないという点はより顕著に出ることが想定されます。
結論として会社本店所在地をどこにすべきか?
資金に余裕があるならレンタルオフィス、ないなら自宅が無難
レンタルオフィスはコストパフォーマンスに優れているとはいえ、起業してすぐに月十数万の賃料を支払うのは厳しい場合も想定されます。レンタルオフィスを賃貸することが可能なのであればレンタルオフィスが推奨されます。
難しい場合には自宅を本店所在地にするのが無難です。
融資を受ける予定がなければバーチャルオフィスも選択肢
融資を受ける予定がなければバーチャルオフィス、又はコーワーキングスペースも有力な選択肢です。
口座については、インターネット専業銀行であればバーチャルオフィスでも口座開設に応じてくれることがあります。不安であれば、一度自宅を本店所在地にして会社設立し、一連の手続きを終えた後にバーチャルオフィスの利用を検討しても良いかもしれません。
ただ、バーチャルオフィスについては、自宅と比較して事業上の優位性はほとんどない点に留意が必要です。どうしても自宅の住所を公開したくない等の事情がない限り、自宅にしておいた方が無難です。コーワーキングスペースは、サテライトオフィスとして利用する分には優れたサービスだと考えられます。
