債権者保護手続きとは
会社に出資された財産は、債権者にとって返済のための引当となることから、一定の場合に債権者の了承が必要となることがあります。例えば、資本金を減少させて、資本準備金、又は資本剰余金に組み入れる場合、配当可能な財産が増加し、債権者にとって返済原資となる財産が減少する可能性が高まることから、債権者に異議を述べる機会を与える債権者保護手続きが求められています。
債権者保護手続は、会社法の定めに従って、官報公告、日刊新聞紙、電子公告、個別催告から複数の方法を組み合わせて実施されますが、特に個別催告の手続方法が詳細に定められておらず、判断に迷うことが珍しくありません。
異議を述べられるとどうなるのか
債権者が異議を述べたときは、弁済し、若しくは相当の担保を提供などが求められております(会社法第449条5項)。特に、大口の債権者に対しては事前にコミュニケーションを取り、了承を得ておくことが大切となります。
個別催告は誰に対して送付すれば良いのか
明文上、債権者は資本金等の額の減少について異議を述べることができるとされている以上、全ての債権者に対して催告を行わなければならないと考えられます(会社法第449条1項柱書)。
しかし、明らかに僅少に金額の債権者に対して個別催告を実施するとなると、事務手続きがあまりに煩雑になってしまいます。そこで、参考になるのが法務局の見解です。法務局に問い合わせると「異議を述べられた場合には弁済等が求められているのであるから、即時弁済できる僅少な金額であれば、個別催告を省略してもよい。」との見解が示される事が多々あります。
明確な根拠がある訳ではなさそうですが、実務上は、数千円から数万円程度の債権者に対しては個別催告を省略しても登記を受け付けてくれます。法務局が登記を受け付けてくれるかは大切なポイントです。
税務署や年金事務所は対象となるのか
条文を素直に読めば税務署や年金事務所も債権者となり、個別催告が必要と考えられますが、実務上はほぼ省略しているように見受けられます。
これは、第二納税義務に基づく請求が可能であったり、倒産法の適用による裁判所の差し押さえの停止も、一般優先債権となる税務署等に対しては効果が及ばないことが理由であると個人的には思っておりますが、明確な根拠は不明です。
従業員も債権者として個別催告の対象となるか
従業員が有する未払いの給与・賃金から生ずる債権も、素直に条文を読めば個別催告が必要と考えられますが、実務上はほぼ省略しているように見受けられます。
これも、倒産法の適用となれば一般優先債権となり、優先的に弁済されることから個別催告の省略が認められているのかもしれません。
どの時点に債権者に対して個別催告をするのか
理論上は、個別催告を行う時点の債権者に対して行うものと考えられます。しかし、実務上はリアルタイムに債権者を把握することは難しく、中小企業であれば送付されてくる請求書等から債権者を把握するのが一般的です。
明確な根拠はありませんが、常識的な範囲で基準日を定め債権者をリストアップして個別催告を実施すれば問題ないと感じられ、それで法務局も登記申請を受け付けてくれます。例えば、6月の中旬に個別催告を発送するのであれば、5月末時点の債権者に対して送付する、ということでしょうか。
実務上の慣習がルールとなっている側面が強い
実務上の要請により解釈が成立してしまい、事実上のルールとして適用されている側面が強い部分です。そのため、明確な根拠がないことから書籍等に当たっても記載がないことが多い論点です。