消費税のリバースチャージ方式とは?導入の背景からインボイスへの対応も含めて解説!

目次

導入の背景

課税対象を定める消費税法第4条

(課税の対象)
 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。

消費税法 第4条 柱書

課税の対象を定める条文は消費税法第4条にあります。当該要件は、以下の4つに整理することができます。

課税の対象を定める4要件

  • 国内取引であること
  • 事業者が事業として行う取引であること
  • 資産の譲渡等(譲渡、貸付、役務提供)であること
  • 対価性を有すること

リバースチャージ方式を考える上で重要なのは「国内取引であること」という要件です。

完全に海外での取引であれば判断に迷うことはありませんが、国内と国外を跨ぐような取引も存在します。その際、国内取引に含まれるかの判断基準が必要となります。

消費税法の内外判定基準

内外判定については、消費税法第4条第3項に記載されております。

3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。ただし、第三号に掲げる場合において、同号に定める場所がないときは、当該資産の譲渡等は国内以外の地域で行われたものとする。
一 資産の譲渡又は貸付けである場合 当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所(当該資産が船舶、航空機、鉱業権、特許権、著作権、国債証券、株券その他の資産でその所在していた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
二 役務の提供である場合(次号に掲げる場合を除く。) 当該役務の提供が行われた場所(当該役務の提供が国際運輸、国際通信その他の役務の提供で当該役務の提供が行われた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
三 電気通信利用役務の提供である場合 当該電気通信利用役務の提供を受ける者の住所若しくは居所(現在まで引き続いて一年以上居住する場所をいう。)又は本店若しくは主たる事務所の所在地

消費税法 第4条第3項

(資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定)

2 法第四条第三項第二号に規定する政令で定める役務の提供は、次の各号に掲げる役務の提供とし、同項第二号に規定する政令で定める場所は、当該役務の提供の区分に応じ当該役務の提供が行われる際における当該各号に定める場所とする。

六 前各号に掲げる役務の提供以外のもので国内及び国内以外の地域にわたつて行われる役務の提供その他の役務の提供が行われた場所が明らかでないもの 役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地

消費税法施行令 第6条2項より抜粋

「役務の提供」について見ると、「当該役務の提供が行われた場所」で判断すると記載されておりますが、役務提供の場所が明らかでない場合には「役務提供者の事務所等の所在地」で判断するとなっております。

ここで問題になるのが、Amazonの電子書籍、Googleの広告配信を初めとするデジタルコンテンツの提供等です。国内向けに役務提供が行われていれば消費税法の趣旨に鑑みれば課税の対象にすべきと考えられますが、役務提供はサーバー上で行われ、かつ役務提供の場所は明らかでないため消費税が課税されないことになっていました。

デジタルコンテンツの配信等への対応が必要に

このように、消費税法が当初想定していなかった形態による役務提供が発生するようになり、社会一般通念に従えば国内取引として課税の対象とすべき取引が、対象から除外される問題が発生したことから、国内企業との不公平感を是正するためリバースチャージ方式が導入されました。

消費税のリバースチャージ方式とは

内外判定の変更

先に述べた消費税法第4条3項3号記載の通り、電気通信利用役務の提供については、「役務提供を受ける者の住所等」で内外判定がなされることになりました。

国外事業者がクラウドの仮想サーバー環境などを利用して役務提供を行ったとしても、役務提供を受ける者が国内にいれば課税の対象に含まれることになります。

「電気通信利用役務の提供」とは?

  • 電気通信回線を介して行われる電子書籍や音楽、ソフトウエア等の配信のほか、ネット広告の配信やクラウドサービスの提供、さらには電話や電子メールなどを通じたコンサルタントなどが該当します。

「電気通信利用役務の提供」に該当する取引の具体例

  • インターネット等を通じて、対価を得て行われる電子書籍・電子新聞・音楽・映像・ソフトウエア(ゲームなどの様々なアプリケーションを含みます。)の配信
  • 顧客に、クラウド上のソフトウエアやデータベースを利用させるサービス
  • 顧客に、クラウド上で顧客の電子データの保存を行う場所の提供を行うサービス
  • インターネット等を通じた広告の配信・掲載
  • インターネット上のショッピングサイト・オークションサイトを利用させるサービス(商品の掲載料金等)
  • リストインターネット上でゲームソフト等を販売する場所を利用させるサービス

リバースチャージ方式の趣旨

国外事業者の電気通信利用役務の提供を消費税の課税対象に加えたとしても、国内法・調査権の及ばない国外事業者から適切に徴税することは容易ではありません。

そこで、本来対価を受領する側が申告・納税義務がある消費税の課税取引に関し、対価を支払う側に申告・納税義務を課したのがリバースチャージ方式です。

(納税義務者)
 事業者は、国内において行つた課税資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三十条第二項及び第三十二条を除き、以下同じ。)及び特定課税仕入れ課税仕入れのうち特定仕入れに該当するものをいう。以下同じ。)につき、この法律により、消費税を納める義務がある。

消費税法 第5条1項

※「特定仕入れ」は、事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう(消費税法第4条)。

八の二 特定資産の譲渡等 事業者向け電気通信利用役務の提供及び特定役務の提供をいう。
八の五 特定役務の提供 資産の譲渡等のうち、国外事業者が行う演劇その他の政令で定める役務の提供(電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。)をいう。

消費税法 第2条より抜粋

このように、申告・納税義務が転嫁される仕入れを「特定課税仕入れ」と呼称し、消費税法第5条1項において仕入者に納税義務を課しております。

条文に記載されている事項を要約すると、「特定課税仕入れ」は次の2つの課税取引を指していると言えます。

「特定課税仕入れ」とは?

  • 事業者向け電気通信利用役務の提供
  • 国外事業者が行う演劇その他の政令で定める役務の提供

事業者でない者に申告・納税義務を転嫁して課すのは現実的ではないため、リバースチャージ方式が適用される対象は「事業者向け電気通信利用役務の提供」に限定されていると考えられます。

「演劇その他の政令で定める役務の提供」も対象になっておりますが、該当する例は僅少だと想定されます。

消費者向け電気通信利用役務の提供の取り扱い

国外事業者による消費者向け電気通信利用役務の提供は、特定仕入れに該当しないためリバースチャージ方式は適用されません。消費者に申告・納税義務を転嫁することは現実的ではないためだと考えられます。

一方、役務提供者から徴税することも現実的ではないため、役務提供者が登録外国事業者に登録した場合のみ仕入税額控除を認めることで、実質的に役務提供者が納付すべき消費税の一部を仕入者に納付させる方式を取ってきました。インボイス制度へ移行した後は、インボイス制度に基づき従来通りの取り扱いがなされております。

すなわち、役務の提供を受ける者が国内にいれば課税の対象となり(消費税法第4条3項3号)、適格請求書を受領できれば仕入税額控除が可能ですが、受領できなければ仕入税額控除を行うことができません。経過措置の適用はありません。

リバースチャージ方式の仕訳例

原則的な考え方

スクロールできます
借方借方金額貸方貸方金額
取引時支払手数料1,000普通預金1,100
仮払消費税100
消費税預り普通預金100仮受消費税100
決算処理仮受消費税100仮払消費税100

上記の通り、役務提供者から消費税を預かったと考えて会計処理するため、課税売上割合が100%に近ければ取引がなかったものと捉えて処理する場合とほぼ同様の影響となります。よって、課税売上割合が95%以上である場合には特定課税仕入れはなかったものとして処理することが許容されております。

(特定課税仕入れに関する経過措置)
 国内において特定課税仕入れを行う事業者の新消費税法適用日を含む課税期間以後の各課税期間(新消費税法第三十七条第一項の規定の適用を受ける課税期間を除く。)において、当該課税期間における課税売上割合(新消費税法第三十条第二項に規定する課税売上割合をいう。)が百分の九十五以上である場合には、当分の間、当該課税期間中に国内において行った特定課税仕入れはなかったものとして、新消費税法の規定を適用する。

消費税法 第42条

課税売上高割合が95%以上の場合の仕訳

課税売上高割合が95%以上の場合、実務上の会計ソフトへの入力においては、対象外取引として入力すれば足りると考えられます。仕訳は次のようになります。

スクロールできます
借方借方金額貸方貸方金額
取引時支払手数料1,000普通預金1,000

課税売上高割合が80%の場合の仕訳

スクロールできます
借方借方金額貸方貸方金額
取引時支払手数料1,000普通預金1,100
仮払消費税100
消費税預り普通預金100仮受消費税100
決算処理仮受消費税100仮払消費税100
雑損失20未払消費税20

共通仕入れであることを前提にすると、上記の仕訳となります。

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AIknot会計事務所/AIknotコンサルティング合同会社
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監修者

PwCあらた有限責任監査法人の金融部門に所属。保険会社を中心とした会計監査、内部統制監査、各種コンサルティング業務に従事。AI化推進室に兼任で所属し、公認会計士業務の自動化を担当。

セコム損害保険株式会社、THホールディングス株式会社における、保険数理、金融派生商品の評価、予実統制、税務、M&A、企業再生、IPO支援の経験を経て、PEファンドJ-star傘下、株式会社Free Spark、株式会社CyberKnot、Mattrz株式会社のCFOを歴任。

2020年、AIknot会計事務所を設立し代表に就任。
2023年、AIknotコンサルティング合同会社を設立し代表社員に就任。

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