月次決算を迅速に締め、経営者に財務報告を行う体制の有無は経営成績に直結します。しかし、中小企業で実施できている例は多くなく、その主要な原因と改善策を解説いたします。
月次決算の早期化とは何か?
月次決算とは?
中小企業は、上場企業等と異なり監査法人の監査や上場規定による拘束がなく、外部の目線が入る機会は税務調査に限定される場合がほとんどです。そのため、会計期間を1年間とする税務申告さえ適切に行っていれば法令等遵守の観点からは問題となりません。
しかし、1年単位でしか会計帳簿を整理しないと、財務情報から企業の状況を確認する機会が年1回しかなく、適切な経営意思決定を阻害します。
そこで一般的に行われるのが月次決算です。1ヶ月単位で決算を締めて確定されることにより、リアルタイムに経営者が企業の状況を把握でき、経営者意思決定に反映できるようになります。
「月次決算の早期化」は翌何日での月次報告を目指す?
特段月次決算の早期化に取り込んでいない場合、月次決算を締めて報告ができるようになるまで翌25~40日程度かかることが多いです。これを概ね翌10~20日程度に短縮する取り組みを、一般に「月次決算の早期化」と呼称します。
ただ、早ければ早いほど良いというものではなく、早くするほど従業員への負荷、人件費やシステム利用料の増大を招くため、費用対効果を勘案して妥当な目標を定めることが重要です。費用面を度外視して早期化を重視する場合、翌3~5日程度で締めることも難しくはありません。
何故月次決算が早く締まらないのか?
月次決算が早く締まらない原因は、一言にまとめると「リアルタイムに会計入力ができていない。」という理由に集約されます。何故リアルタイムに会計入力を進められないのかは、項目ごとに性質が異なりますので主要な原因を次に紹介いたします。
①請求書ベースでの費用計上の限界
最も多いのが、請求書ベースでの費用計上により費用関係の計上が遅延している例です。従来の業務フローでは、「末締め翌〇日まで」という形で請求書が取引先から送付されてきて、この請求書を証憑として仕訳入力をするのが一般的でした。
こうなると、取引先によっては翌15~20日頃にならないと請求書が届かない例も珍しくないため、取引量が多い企業では、請求書が届いてから入力作業を開始すると、迅速に対応しても翌25日頃の月次報告が限界になってしまいます。
②売上高を入金通知書から計上している
クレジットカードや電子マネーで決済された売上高は、決済代行会社から決済手数料を差し引いて入金されてきます。その際、入金額の通知が決済代行会社からなされますが、この入金通知書から売上高を計上している例が多くあります。
入金通知書は、加盟店から決済データを送信し、決済代行会社でデータを取りまとめてから発行されますので、翌15日頃にならないと届かないこともあり、遅延の原因となります。
③給与計算に時間を要している
給与計算に時間がかかっており月次決算が早く締まらないというのも非常に多い例です。給与計算が遅延する理由は様々ですが、主な理由は次の通りです。
給与計算に時間がかかる主な理由
- (A)給与計算を外部に委託していてやり取りに時間を要している
- (B)毎月複雑な計算工程を経てインセンティブ給与を算出している
- (C)勤怠情報の確認と集計に多数の工数が発生している
- (D)立替経費の申請と集計に多数の工数が発生している
- (E)給与振込の振込予約に多数の工数が発生している
(A)給与計算の外部への委託は月次決算遅延の原因となります。委託先が優秀な社会保険労務士事務所、又は税理士事務所等だったとしても、給与計算事務を受任する事務所は1名で同時に数十社の担当をしていることが一般的なため、どうしても返信まで時間を要します。
例えば、何らかの修正依頼や確認の連絡をしたとして、翌日や翌々日の回答になってしまうことは珍しくありません。やり取りが複数回に及べば、それだけで数日が経過していきます。
(B)最近は、毎月のインセンティブ給与の支給による遅延が非常に増えています。会社利益の還元は賞与によって行うのが本来ですが、人材の確保に苦労する会社も増えており、入社後迅速に(賞与の代替として)インセンティブ給与を支給したいという意向が珍しくありません。又、業種によっては担当した客数や単価に応じて毎月給与支給額が増減する慣行がある場合もあります。
計算工程が複雑化していると、迅速な給与計算を行うことが現実的ではなくなり、給与関係の費用計上が遅延します。
(C)(D)(E)月末を過ぎてから1ヶ月分まとめて勤怠情報を提出していたり、経費精算を行っていると、その確認と対応事務で時間が経過してきます。
その他、給与計算後の給与の振込予約を1名ごとに行っていたり、給与の振込元となる出金口座が多数あり、給与の振込予約に時間を要している例もあります。
④口座取引履歴及びクレジットカード決済履歴の取得遅延
金融機関に通帳記入に行き、通帳から口座残高の増減を取り込んだり、クレジットカード会社から月次の取引明細が届いてからクレジットカードの決済履歴について会計入力を行うと、どうしてもリアルタイムに会計入力を行うことができません。
通帳については週1回記帳に行く等の対応も可能ですが、特にクレジットカードの取引明細は月の末日を過ぎないと発行されませんので、遅延の原因となります。
遅延原因に対する主な改善策
①費用発生は発注段階で把握する
決算早期化が本来の目的ではありませんが、内部統制として費用の発生段階で稟議申請等のワークフローが導入されていると発注段階で費用を把握できます。
また、契約書の締結フローや締結した契約書を管理部で管理・保管できていれば、請求書が届く前の段階で発生する費用を補足できます。請求書がきて初めて管理部が費用の発生を認識する、ということがないような体制を構築することが大切です。
ワークフローは、安価なものや会計システムに組み込まれているものもありますので、必要に応じて導入することで改善が期待できます。また、契約書の締結も、電子署名システムを用いて管理部を経由する業務フローにすると良いと考えられます。
②売上高はレジやPOSシステムから自社で集計する
売上高を自社で集計するというのは本来当然のことですが、キャッシュレス決済が増えて決済代行会社が集計してくれる機会が増えると、失念してしまうことがあります。
レジや伝票、POSシステムを使用している場合にはPOSシステムから出力したデータから売上高を集計できることが大切です。クレジットカードにより決済手数料が変わりますので着金額まで自社で計算することは容易ではありませんが、少なくとも売上高については自社で計算し、着金額との整合性を確認できることが大切です。
売上高発生の都度請求書を発行するビジネスの場合は、会計システムと請求システムを連携することで請求の都度売上高を計上できます。
③給与計算は制度と組織の設計に注意する
(A)外部の委託先とのやり取りに時間を要している場合には、業務フローを整理して修正や確認の頻度を減少させて解決するか、難しければ内製化するしかありません。
(B)給与計算工程が過度に複雑化して財務報告体制が瓦解しないようにするためには、賃金規定の設計の際に給与計算工程を理解している人材が関与することが大切です。人材の確保に影響するため、従業員への動機付けや不満への対処のみを意識して制度を設計してしまう例は珍しくありません。
インセンティブ給与を毎月支給すると、残業手当や他の項目にも影響が及びリスクもあるため、原則的には本来の制度趣旨に基づき年2回等の頻度で賞与として支給した方が良いと考えられます。
どうしても毎月のインセンティブ給与を導入する場合には、計算の基礎データをどのように収集して計算するか、業務フローを理解した上で制度を設計することが重要です。
(C)(D)(E)勤怠管理ソフトや経費精算ソフトを導入し、週次又は日時で都度申請と承認の業務フローを回すことが大切です。
給与計算ソフトをきちんと使いこなし、給与振込の予約は1回で完了するようにするのが理想です。給与の振込元となる口座が分散している場合には、本社の口座から一括して振り込むと迅速かつ正確になります。
④クラウド会計システムを導入する
API連携が可能な現在主流のクラウド会計システムを導入すれば、オンラインバンクの取引履歴やクレジットカードの決済履歴をリアルタイムに取り込むことができます。
よくある失敗例
決算早期化は会社全体での対応が必要(従業員の反発)
勤怠情報の提出、経費精算、売上高情報の集計、ワークフローの導入等、決算早期化はバックオフィスのみの取り組みで実現できる訳ではなく、会社全体での取り組みが不可欠です。
負荷は多々生じますが、従業員からすると取り組みに成功しても自身に昇給等のメリットがない一方、厳しく作業の進捗を管理されるため、デメリットしかないと感じ反発することが珍しくありません。どのように対応するかは難しい経営判断になりますが、断固として推進するという意思が経営者にないと成功しない部類の施策であることは念頭に置いた方が良いかもしれません。
専門家に依頼すれば簡単に実現するという性質ではありません。外部の専門家が従業員の説得等をしてくれる訳ではなく、あくまでも専門的なノウハウの提供や必要性の説明に留まるためです。経営陣の意思決定が組織全体に波及するように人事評価制度が整備されいるか等も間接的に問われます。
会計帳簿の質が確保できず意味のない決算早期化に終わる
早く決算を締めることが目的になってしまい、財務報告体制を強化することで経営意思決定の精度を向上させるという元々の目的が果たせなかったという例は後を絶ちません。
月次決算の早期化の目的は先に述べた通り、事業の状況を適切に反映した月次の会計帳簿を迅速に届けることで、経営意思決定に役立てることです。例えば、急激にある店舗の売上高が前年対比で減少したという事象をいち早く把握し、その原因を特定できれば、迅速に対応策を練ることができます。そして、会計帳簿にこのような機能を期待するためには、会計帳簿にその月に発生した売上高が適切に反映していなくてはなりません。
しかし、月次決算を早期化するというタスクを達成するため、概算値や推計値(過年度データからの推計等)を計上して締めてしまうことが多くあります。概算値や推計値を使用することが必ずしも不適切という訳ではありませんが、マネジメント対象となる指標に対して用いては意味がありません。
多くの経営者は会計に係る専門的な知見を有しておらず、会計帳簿の計上された財務数値の質(経済的実体を適切に反映しているか)までは判断できないため、早期化のタスクを課された(又は依頼された)従業員や委託先がこのような対応を行うことが多くあります。単に誤魔化してプロジェクトを完了させたいという怠惰な思いから選択されることもあれば、従業員の協力が得られない等の理由からやむを得ない選択としてなされることもあります。
本当の意味での決算の早期化ができている例は実はさほど多くはありません。極端な例ですが、ある時点で会計入力を締めてしまい翌月以降の入力に繰り越せば、外観としては決算の早期化が実現できたように見えます。
月次決算の早期化が難しいルール等が既に構築されてしまっている
先に述べた通り、月次決算を早期化するためには、規定等の構築段階で早期化の障害にならないかを慎重に検討する必要があります。
このような検討がなされることなく規定等が既に制定されており決算の早期化が難しい場合、現行の規定等を大幅に変更・整理していかなければ決算の早期化が難しいということになります。しかし、不利益変更等の制約から変更が実施できない例もあります。会社が成熟してから取り組むのではなく、早い段階から意識することが大切です。
月次決算の早期化を簡単に考えてしまう
見てきたとおり、決算の早期化は会社全体の協力が必要な施策となり、かつ経理、人事、給与計算、経費精算等の業務フローから税務申告まで広範な領域の包括的な整理と改善が必要になり、関連するシステム等の知識も必要となります。高度な知見を有した専門家の協力とコストの負担も必要になることに留意が必要です。
従業員に指示すれば達成できるだろうと軽く考えてしまい失敗する例は多くあります。専門性の高い従業員が内部に在籍していない限り、自身の担当業務の周りを中心に検討してしまい、部分最適に陥って改善が見込めないことが多いです。
