会計freeeが使いにくいと感じる理由

目次

現金主義採用の傾向が強い

freee請求書から連携される仕訳に感じるfreeeの考え方

freeeの凄い点は、スモールビジネス向けに、かつては大企業しか導入できなかったERPを提供したことです。インターネット環境の発展を存分に活用してこれを実現しており、マネーフォワードと共に会計業界への貢献は大きいと感じております。当事務所も、freee認定アドバイザーに登録しております。

ERPでは、フロントに請求書管理システムがあり、受注した契約情報が入力されると売上高の仕訳が生成されるという仕組みは昔からありました。上場企業が導入しているようなERPですと、次のような仕訳が生成されます。

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時点借方金額貸方金額
契約日売掛金1,000円前受収益1,000円
役務提供日前受収益1000円売上高1,000円
着金日普通預金1000円売掛金1,000円
大企業向けERPで自動生成される売上高に係る仕訳

契約日、売上高が実現する期間を入力すれば、上記のような仕訳が生成され、着金した後に消込を行えば売掛金に係る仕訳も生成されます。

freeeで自動生成される仕訳

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時点借方金額貸方金額
契約日
役務提供日売掛金1,000円売上高1,000円
着金日普通預金1,000円売掛金1,000円
freeeで自動生成される売上高に係る仕訳

freeeで自動生成される仕訳は上記のようなものです。一番困るのは、役務提供日より前に対価が着金することを想定していないことです。

前受収益の発生を想定していない

売上高と売掛金を同時に計上する仕組みなので、売上高が計上されていない場合、売掛金もまだ計上されておりません。なので、対価の前払いが生じると消込ができないという事態になってしまいます。

勿論、freeeもこのような弱点は認識しているようで、「前受アプリ」なるものを別にリリースしており、一定のケアはなされております。ただ、手動で前受収益の更新処理をしなくてはならないのは間違いなく非常に面倒です。

請求管理システムに「売上高の帰属期間」という概念もない

請求書管理システムに入力する際、freeeでは売上高の帰属期間という概念もありません。例えば、役務提供期間が1年間であれば、12カ月に渡って売上高を計上する訳ですが、そのような指定はできません。

まず、経過勘定で仕訳を切って、更新処理をして期間配分をしていくしかありませんが手動です。

上場企業向けのERPでは

上場企業向けのERPでは、契約日に売掛金と前受収益が計上されており、着金したら売掛金が消し込まれ、指定した役務提供期間で前受収益が売上高に振り替えられていきます。請求書管理システムへの入力だけで済んでしまい、その後はほぼ全自動です。

良くも悪くもスモールビジネス向けに開発されている

なぜ、freeeがこのような仕様になっているのかというと、スモールビジネス向けに開発されたという歴史が影響しているのだと感じています。

小規模事業者では、企業会計の基準に即してきちんと損益計算書を作成するような例はまずありません。着金日に売上高を計上してしまいますし、支出した日に費用計上をしてしまいます。つまり、現金主義での記帳が多いのです。

スモールビジネスで、会計の知識が分からなくてもある程度の帳簿が自動で作成されるようなソフトウエアを目指した結果、このような仕様になったのだと憶測します。しかし、中堅企業、上場準備企業、上場企業では、非常に使いづらいのは否めません。

「借方」「貸方」の概念を放棄した影響

作成したい仕訳が作成できない

立替払いが生じるぐらいは珍しくもありません。その時、仕訳はどのようになるでしょうか。

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借方取引先金額貸方取引先金額
広告宣伝費A社1,000円未払金P社1,000円
立替払いが生じた際に計上すべき仕訳

仮に、広告宣伝費をA社に対して依頼し、親会社P社が立替払いをしてくれた場合、仕訳は上記のようになります。freeeでは、1つの仕訳に対して1つの取引先が設定されるため、上記のような仕訳は通常の入力だと切れません。

まったく珍しくない、ありふれた仕訳なのに切れないのです。一度、取引先を借方、貸方共にA社で計上し、振替伝票で未払金の取引先をP社に振替える方法もあるかもしれません。しかし、振替伝票のデータは振込データ作成に反映しないという特徴があります。つまり、振込データはA社に対して作成されてしまうのです。

なお、初めから振替伝票を使用すれば上記のような仕訳を作成することもできますが、今度は振込データが作成されなくなってしまいます。振替伝票で仕訳をつくり、別途振込データを作成するか、取引先をP社で計上し、広告宣伝費の取引先だけ振替伝票でA社に変更する処理が現実的な選択肢になりますが、このようなfreeeならではの仕様を把握していないと対応できないことが一つのハードルとなっております。

給与に係る仕訳で詳らかになるfreeeの欠点

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借方取引先金額貸方取引先金額
役員報酬役員等30,000円未払費用役員等23,000円
預り金社会保険事務所5,000円
預り金所轄税務署2,000円
役員報酬発生時のあるべき仕訳

役員報酬や給与手当が発生した場合、上記のような仕訳を切るべきですが、一つの仕訳に対して一つの取引先しか設定できないためやはりfreeeでは仕訳をきることができません。どうすればいいのでしょうか。

freeeで推奨される給与仕訳

freee人事給与から自動連携される仕訳が上記キャプチャです。

預り金は、控除項目という形で入力するしかありません。しかし、控除項目として入力しても未払データとして認識されない仕様であり、このままだと消込ができません。口座から源泉所得税や社会保険料等が引き落とされても、消込先のデータとして当該「預り金」は出てこないのです。

freeeのオンラインヘルプ等では、再度「預り金」を借方に計上する仕訳をきり、貸方に「未払金」を計上することで未払データを作成することを推奨しています。これには、少し迷走している印象を受けてしまいます。

「預り金」として開示すべき事項を「未払金」にしてしまうのですから、監査法人の監査を受けている場合は「開示上の虚偽表示」とされてしまいます。しかし、消込の対象となる勘定科目は未払金、未払費用など、一定のものに限られております。会計基準に従った処理をしようとすると便利なfreeeの機能が使いづらくなってしまうのです。

複式簿記の考え方は放棄すべきではなかった

freeeは、複式簿記の考え方を採用しないことで、会計の知識がない人でも会計帳簿を作成できることを目指したようですが、これはまったく実現できておりません。やはり、freeeを使用していても、会計知識がない方が作成した会計帳簿は悲惨なものです。

反面で、作成したい仕訳が切れないという問題は生み出しているため、複式簿記の考え方は維持した方が良かったように感じられます。投資家へ訴求するという意味においては成功しているのかもしれませんが、プロダクトの有用性という側面からはデメリットしかもたらしていない気がいたします。

他にも、貸借対照表も部門別にきちんと作成しようとすると、資産勘定にも部門タグをつけたかったり、借方貸方に別々の部門タグを付すべき局面が出てきますが、できなかったります。

正しい帳簿を作成しようとすると「自動登録ルール」は使いづらい

現金主義が前提の仕様

freeeは、「自動登録ルール」を使用することで記帳が劇的に効率化すると考えているようです。自動登録ルールとは、事前に摘要欄の記載や金額から仕訳のパターンを登録しておくことができる機能のことです。

例えば、毎月の発生する地代家賃の支払いに係る処理を効率化できるように見受けられます。しかし、地代家賃は前払いであることが多く、一度前払費用に計上してから地代家賃に振替えるという処理になります。このような経過勘定を挟むパターンを自動登録ルールとして設定することはできません。

支出した日に費用計上するパターンしか対応していないのです。そうなると、正しく会計帳簿を作成するという前提に立った時、自動登録ルールは多くの場合使用することができないことになってしまいます。

振込手数料などの少額の費用では便利

振込手数料など、支出時に費用処理し、かつ反復的に発生する取引もありますので、これらの取引に対しては自動登録ルールを使用することが効率化が可能であり便利です。

解約阻止策が顕著

あえてエクスポートできない機能が存在する

freee請求書の定期請求書のマスタデータは、CSVでエクスポートすることができません。フレームワークが発展している現在において、CSVエクスポート機能を実装することは何ら難しくありませんので、意図的に実装していないのだと思います。憶測ですが、解約阻止策なのだと思っております。

請求データはエクスポートできるので、マスタデータの方だけエクスポートできない理由は他に思いつきません。マスタデータを出力できてしまうと、他社に乗り換えられてしまうと考えているのだと思います。

このCSVエクスポートができないデメリットは甚大で、「料金を一律10%値上げする」といった場合に、1件ずつ手作業でマスタデータを修正しなくてはなりません。1,000件あれば1,000回、3,000件あれば3,000回の入力作業が必要です。本当に不毛な作業です。

全般的に商魂が逞しすぎる気がします。一度契約してしまえばお客様からの連絡も無視する姿勢も顕著で、他社もある程度ありますが、ここまであからさまではありません。

新興ベンダーならではの粗が目立つ

組織・役職設定の際に空席があるとエラーとなる

経費申請の際のワークフロー機能がありとても便利です。会社が徐々に大きくなってくると、職務分掌規程や稟議規定を設けて承認フローを整備することになり、IPOを目指すうえではこれらが必須となってきますが、空席があるとエラーになって止まってしまうという弱点があります。

図:空席、兼任の設定ができない

freeeでは、freee人事給与側で部門と役職の設定を行い、freee会計のワークフローに読み込んでくる仕組みとなっておりますが、余程の大企業でない限り空席が生じていたりします。

例えば、経費申請でまず申請者の所属する課長が承認し、次に部長が決済するというルールを定め、freeeでも同じように設定したとします。開発部門だけ課長は空席だったりすると、設定では初めに課長の承認となっているため不在エラーとなってしまいます。

兼任もできない

ここでまず思いつくのは、「開発部長に開発課長を兼任させればよいのではないか。」ということですが、freeeでは1つの組織内で同一の人物を複数のポジションに設定することができません。

そのため、上図のような場合に同一人物を開発部長と開発課長を兼任させることはできませんし、中堅企業では珍しくない複数部門の部長を兼任するような横の兼任設定もできません。とにかく、一つの組織内で同一人物を複数ポジションに設定できないのです。

freee設定上の組織図を工夫することである程度解決する

単純な解決策としては全て手作業で個別に設定するというのがあります。

「申請者⇒申請者が所属する部門の課長⇒申請者が所属する部門の部長」と承認フローを設定するのではなく、次のように個別に承認フローを作成し、申請者に自身の所属する部門を選択して貰うという方法です。
①「申請者⇒営業課長⇒営業部長」
②「申請者⇒開発部長」
③「申請者⇒事務課長⇒事務部長」

ただ、当該方法は承認フローが無数に増えていきますし、退職者が出る度に承認フローの総メンテナンスが必要になり現実的な方法ではありません。なにより、他部門の上長に申請することができてしまい、統制上好ましくありません。

しかし、freee設定上だけ組織を工夫することである程度の解決を図ることができました。

会社の組織図上はA事業部とその下部組織であったとしても、freee人事給与における設定上は、営業部、開発部、事務部を独立した組織として設定する方法が考えられます。

そうすると、別組織であるため1人の人物を営業部長と開発部長に設定するようなことが可能となります。誰かを兼任で空席のポジションに入れてしまえばエラーは生じません。また、実際には開発主任であっても、freeeの設定上は開発課長にしてしまうという方法もあります。やはり、承認者が空席で不在という現象は生じません。

なぜスキップできないのか

昔から会計システムを販売しているようなベンダーのソフトウエアは、顧客からの要望の収集と改修の繰り返しを長期にわたって反復してきているため、「何でこんなことができないのか。」という思いがけない不便さに突き当たることはあまりありません。

しかし、新興ベンダーのソフトウエアだと、上記のように洗礼されていないという印象を受けることは珍しくありません。承認者が空席で不在であれば、スキップすればよいだけであるもの事実です。

勿論、歴史のあるベンダーならではの不便さもありますので、一長一短です。

マネーフォワードとの比較

freeeはプランによる機能制限が顕著

よく比較されるマネーフォワードでは、低廉なプランでもきちんと使用に耐えうる機能を備えており、IPOを目指す上で必要になる仕訳の承認、監査ログのエクスポート等の機能が欲しいのであればマネーフォワードplusが推奨され、価格も上がるという仕組みです。

ベースのプランで基本的な機能は充足されており、特殊な機能が欲しいのであれば別途料金を支払って追加する、という温度感なのであまり違和感を感じることはありません。

freeeでは、低価格帯のプランだと、そもそも会計帳簿を作成するのに必須の機能なのではないか、という機能まで制限されており、低価格帯のプランの存在意義に疑義が生じます。例えば、「自動で経理」で生成された仕訳の資産勘定に、プロフェッショナルプラン以上でないと部門タグがつけられません。低価格帯のプランだから特定の勘定科目だけ部門情報の付与に制限がついているプロダクトは他に知りません。

資産勘定が自動で計上されることの弊害がある

freeeでは、できる限り自動で処理していこうという設計思想が伺えます。これは、他のベンダーが、あくまでも人の手を介して会計処理を行い、ソフトウエアはその補助として位置付けている点と異なります。

例えば、費用が発生し対価が未払いであった際、反対勘定に未払金が立つのか、未払費用、あるいは買掛金が立つのかは勘定科目ごとに設定する仕様です。給与手当であったら未払費用といった具合で、仕訳ごとに修正することはできません。

しかし、同一の費用勘定であっても、反対勘定は画一には定まりません。厳密に企業会計原則に従って処理しようとすると対応できないという弱点はあります。

機能間の情報連携面ではfreeeの方が優れている

マネーフォワードは、元々マネーフォワード会計があり、そこに後から別のプロダクトを開発して連携させたという印象を受けます。それ故、マスタ情報を別々に保有しているなどの特徴があり、ERPとして構築されたシステムと比較すると情報連携の面で弱い部分があります。

freeeでは機能間の連携はスムーズであり、内部統制の整備を考える上でも自動統制に依拠できる範囲が広がるというメリットがあります。

「品目」「取引先」両方のタグ情報を付与できる点はメリット

従来の会計ソフトは「補助科目」という概念を使用しておりました。freeeは、「品目」「取引先」という考え方に分かれており、1つの仕訳にこの両方の情報を付すことができます。これは非常にありがたいです。

例えば、地代家賃を例に挙げれば、補助科目には物件名を入力します。freeeで記帳すると、「品目」に物件名を入力し、「取引先」に取引先名称を入力できます。そうすると、地代家賃というPL項目を物件ごとに閲覧でき、取引先ごとに閲覧することもできます。

取引先ごとに、一定の取引金額を超える場合には合い見積もりを行う内規になっているとか、取引金額の大きい取引先を記述しなくてはならないなど、こういった情報が必要になる場面は珍しくありません。かつては、都度エクセルで編集していたわけですが、会計システムに情報が整理されていると手間が削減できます。

特に連結決算を組みたい場合、全ての勘定科目に関し取引先を把握する必要があります。補助科目しかないと、特定の勘定科目については取引先を別途洗い出す作業が生じ、非常に面倒です。

クレジットカード連携のタイミングが遅い

決済代行業がメインであったマネーフォワードと比較すると、金融機関との連携面では不便さを感じる場面があります。特に、クレジットカードの決済情報が連携されるタイミングが遅いです。

アメリカンエクスプレスなどの特定のクレジットカード限定で、ほぼリアルタイムに決済情報が連携されますが、その他のクレジットカードだと、連携されるまで1カ月近くかかる場合もあります。決算早期化を考えると、大きな障害になってしまいます。

非常に優れている面もある

コストパフォーマンスは圧倒的

様々な難点はありますが、昔からの上場企業が利用しているようなERPは年間数千万の利用料が相場です。freeeはエンタープライズプランを利用しても、ERP全体で年間300万くらいで済みます。

マネーフォワードと共に圧倒的なコストパフォーマンスがあるのは間違いなく、故にお勧めしているプロダクトであることも事実です。この価格帯でERPとしてまともに機能するプロダクトは、freeeとマネーフォワードしかありません。

APIリファレンスの説明が充実

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監修者

PwCあらた有限責任監査法人の金融部門に所属。保険会社を中心とした会計監査、内部統制監査、各種コンサルティング業務に従事。AI化推進室に兼任で所属し、公認会計士業務の自動化を担当。

セコム損害保険株式会社、THホールディングス株式会社における、保険数理、金融派生商品の評価、予実統制、税務、M&A、企業再生、IPO支援の経験を経て、PEファンドJ-star傘下、株式会社Free Spark、株式会社CyberKnot、Mattrz株式会社のCFOを歴任。

2020年、AIknot会計事務所を設立し代表に就任。
2023年、AIknotコンサルティング合同会社を設立し代表社員に就任。

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